第22話 悪役×悪役=最強
俺の魔物狩りは意外なほどあっさりと終了した。
前半の戦闘以外はほとんどアリサやリオンの様子を確認して時間が過ぎた。
最初こそ優勝を目指して魔物を狩っていたはずなんだが……気付けばヒロインの世話ばかり。
その事をクラリスにしつこく訊ねられたりした。
彼女には適当に答えたが、ハイライトの消えた瞳が不気味でしょうがなかった。
そしてさらに時間は過ぎて魔物の査定に入る。
これで誰が最高の成績を叩き出すかが決まるわけだが……。
「オニキス様、倒した魔物などを見せてください」
「どうぞ」
審査員の一人、黒服の男性にそう言われて俺は袋を手渡した。
その袋はファンタジーものの定番。生物以外はなんでも収納できる〇次元ポケットだ。
魔物狩りを行う際に支給される。
便利だが別段珍しい物でもない。アクロイド公爵家にもいくつかある。
「ありがとうございます。では中身の確認をしますね」
黒服は一言断ってから袋の中身を解放した。
直後、黒服の目の前に、山のような魔物の死体が。
それだけじゃない。
アリサたちを助けるために倒したパラサイト・センチピードの死体まで現れる。
死んでいるのに会場内は大パニックだ。
袋を解放した黒服さえ涙を滲ませながら走って逃げだした。
きゃーきゃー、という悲鳴が逆に心地良い。
これはきっと、俺の中に眠るオニキスの悪役魂だと思う。
「でも……これじゃあ査定とかそういう話じゃなくなるな」
どうすんだこの空気。
周りの他の参加者たちからドン引きされている。
——あ、その中に兄ジェットを見つけた。
ジェットの表情は他の参加者たちと同じように引き攣っている。
まるで俺のことを化け物みたいな目で見ていた。
酷いな。俺はただ人助けのついでで魔物を倒したに過ぎない。
それと魔剣な。あれマジでチートすぎる。
調子に乗って魔力を籠め過ぎた俺も悪かったが、今後、同じような敵と戦う時はもう少し魔力を抑えてもいいかもしれない。
さすがに二度も使うと感覚が身につく。
次はもっと上手く使えるだろう。
そう考えていると、不意に遠くの森が——揺れた。
けたたましい音と震動を起こしてそれは姿を見せる。
三匹の大型の魔物だった。
三つ首のケルベロス。
先ほど戦ったパラサイト・センチピード。
それにこれまで一度も戦ったことのない蛇型の魔物——ヴェノム。
それら三体が、森の一部を薙ぎ倒しながらこちらに迫って来ていた。
またしても会場中に悲鳴が響く。
参加者たちを含めた、観戦席の人間たちも逃げていく。
だが、どう考えても魔物の速度のほうが早い。
——誰かが足止めをしないと追いつかれるな。
そしてその役目に一番相応しいのは、残念ながら俺だった
「もうほとんど魔力は残ってないのに……」
俺は黒羽根の剣を鞘から抜きながら走る。
内心で魔力回復薬を使うかどうか考えた。
そこへもう一人の人物が並ぶ。
「お供します、オニキス様」
クロエだった。
美しい銀髪を揺らしながら彼女も大型の魔物へ突っ込んでいく。
走りながら声をかける。
「いいんですか、クロエ嬢。相手は大型。いまのあなたでは足手纏いですよ」
「ンンッ! いまは興奮してる暇ではないんですよ!? やめてください!」
「興奮するのをやめろ」
なぜいまので俺のせいになる?
彼女の変態性はこんな状況でも変わらなかった。
「わたくしに興奮するのを止めろだなんて……ふふ。無理な話ですわ。その上で先ほどの質問にもお答えしましょう。たしかにわたくしは大型の魔物を相手するには実力が足りていません。前もオニキス様に助けてもらったくらいですから」
「だったらなんで……」
「それでも、好きになった相手と肩を並べて戦いたい。——そう思うのが乙女心でしょう? あなた様を一人にはさせません。あなた様のためにわたくしは死にたいのです」
「クロエ嬢……」
なんか良い
でも、彼女の気持ちは素直に嬉しかった。
それに、いまは一人でも多くの手練れがいる。
彼女は一人では大型の魔物に勝てないが、保有するスキルは多対一で役に立つ。
つい冷たいことを言ったが、彼女がいてくれると俺は助かる。
「では力をお借りしますね、クロエ嬢。俺のサポートをお願いします」
「お任せください。このクロエ、あなた様の犬になりましょう!」
「いらないです」
「あんッ!」
もう彼女に協力を求めた事を後悔していた。
だが、いまさら俺たちは止まれない。
こちらに迫る魔物、その中で最も速い動きを見せたパラサイト・センチピードとぶつかる。
俺が剣を振るより先に、後ろに並んだクロエがスキルを発動した。
「————凍りなさい」
クロエが剣を振り、その直線状の地面が凍結していく。
これがクロエのスキル『氷属性魔法』だ。
遠距離系の魔法属性スキル。
俺が持っていない貴重な遠距離火力で、他の属性より威力こそ低いが、汎用性と拘束力に優れている。
特に俺が目をつけたのがその拘束力。
大きな口を開いたパラサイト・センチピードが、足元から迫ったクロエの凍結スキルに動きを止められる。
まるで地面に縫いつけられるかのように体の半分が凍った。
「キシャアアアアッッ!!」
突然動けなくなったパラサイト・センチピード。
当然、魔物は暴れる。
バキバキとすぐにクロエの氷は砕かれていくが、一瞬でも隙ができれば充分だ。
俺はパラサイト・センチピードを飛び越えて背後のケルベロスに攻撃を仕掛ける。
魔剣レーヴァテインでしか
先に黒羽根の剣でも倒せる魔物を倒す。
いまの俺は魔力が少ないため、できるだけ魔剣は温存しておきたかった。
下手に残った魔力を込めて攻撃したら、近くにいるクロエまで巻き込んでしまう可能性もある。
使うなら毒を持つヴェノムと寄生虫がウザいパラサイト・センチピードだ。
ケルベロス程度なら黒羽根の剣でも殺せる。
「グルルッ!」
俺が目の前に現れた瞬間、明らかに殺気を放つケルベロス。
三つの首が同時に俺へ噛みついた。
相手の動作を魔眼による動体視力の向上で見切り、内側に入ってからその首を切断する。
すでに一度戦った相手だ。前よりスムーズに殺せる。
ヴェノムとパラサイト・センチピードが俺にターゲットを向けてくるが、クロエの妨害とケルベロスとの同士討ちを避けてなかなか攻撃できていなかった。
その間にも俺はケルベロスに攻撃を加え——あっさりと三つすべての首を落とす。
「次はお前らだ。節約すれば二体くらいもつだろ」
倒れたケルベロスから視線を外し、黒羽根の剣を収納空間へ送る。
次いで、最恐最悪の魔剣レーヴァテインを取り出した。
赤黒い剣身を見た二体の魔物は、やはり他の個体と同じように魔剣の発するオーラにビビる。
魔力を吸収し、魔剣がより強い光を放った。
「悪いが——……一瞬で終わらせるぞ?」
目隠しを外す。
魔剣に供給する魔力はごくごくわずか。
それだけでも魔剣の斬れ味なら充分だと判断する。
残った魔力は『石化の魔眼』に託す。
チャンスはたった一回。それだけあればあの二体を仕留められる。
にやりと笑ってから俺は地面を蹴った。
同時にパラサイト・センチピードとヴェノムが動く。
それを見て、俺はいきなり魔眼を発動した。
————石化の魔眼!!
二体の魔物の動きが止まる。
魔力がほとんど空になった。だが、その甲斐もあって相手は隙だらけだ。
魔剣レーヴァテインを構え、二体の間に。
後は円を描くように剣を振るうだけ。
わずかな炎が空中に赤いラインを噴き出した。
抵抗もなく二体の魔物の首が同時に落ちる。
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