第20話 最強の力
パラサイト・センチピードの前に立つ。
後ろには原作ヒロインのアリサが。
別にここで俺が彼女を助ける必要はなかったのかもしれない。
けど、体が無意識に動いてしまった。関わってもいいから彼女を助けたい、と。
そうなったらやるべき事は一つしかなかった。
視界を遮っている目隠しを外す。
「さあ……お前の相手は俺だ」
剣を構え、にやりと口角を上げて笑った。
眼前のパラサイト・センチピードは、それを見た瞬間に動く。
「キシャアアアッ!!」
蛇みたいな叫び声を上げて巨大な体を地面に打ちつける。打ちつけた先には俺とアリサがいた。
「————石化の魔眼」
赤色の瞳がパラサイト・センチピードを睨む。
直後、魔物の動きが完全に停止した。
「な、なに……!? 魔物が……止まってる?」
背後ではパラサイト・センチピードの不可解な状態にアリサが驚いていた。
もちろん説明している時間はない。説明してやる義理もない。
俺は無防備になったパサライト・センチピードの頭に向かって跳躍。魔眼の効果を解除すると同時に、剣を全力で振り下ろした。
魔物の首に当たる。
ギィィィンッッ!!
またしても俺の攻撃はクリティカルヒット。圧しかかり攻撃をしようとしていたパラサイト・センチピードの頭部を横に吹き飛ばした。
「チッ!」
しかし俺は舌打ちする。
完全に無防備状態の相手に攻撃した。それでも攻撃は通らない。
魔物の皮膚をわずかに斬り裂いた程度に留まる。
——硬すぎるだろ、こいつ。
俺の想像を超える肉体の強度だ。おそらく攻撃系のスキルでも使わないとダメージはほとんど通らない。
そして俺には攻撃系のスキルが無い。
「まるでお膳立てされてるような状況だな……」
俺の通常攻撃ではパラサイト・センチピードは殺せない。
だが、決して手がないわけでもなかった。
苦渋の選択ではあるが、一度は収納空間に送ったあの武器を取り出すことにする。
「チュートリアル、——魔剣をよこせ」
俺の言葉に反応して、目の前に赤黒い剣が現れた。
血のように赤い。恐怖を抱くほどの黒。燃えるような熱。
それらを感じながらも俺は魔剣レーヴァテインを掴んだ。
先ほどまで使っていた黒羽根の剣を収納空間に送り、レーヴァテインの剣身を抜く。
その瞬間、前後で同じ反応が返ってきた。
「ッ!? あの武器……なに?」
「シュルルルッッ……!」
最初はアリサだった。
後ろで俺の握り締める魔剣を見て恐怖を抱く。
次はパラサイト・センチピード。
前方で体をくねらせると、分かりやすく俺から距離を離した。
大型の魔物が明らかに恐怖を抱いている。
「なんだお前……魔物でもこの剣が怖いのか?」
魔剣レーヴァテインに魔力を注いだ。
魔剣とは魔力を供給されることでその剣に秘められた能力が解放される——だったか?
作中で魔剣を持つキャラクターはほぼいない。
ゆえにその説明をうろ覚えの状態で思い出す。
魔力を流し込まれたレーヴァテインが、どくどくと鼓動のような音を立ててから真っ赤な光を放った。
まるで生きているようだ。何度見ても気持ちが悪い。
「先に言っとくぞ、パラサイト・センチピード」
俺は剣をゆっくりと構える。
「この剣を使う以上は……手加減、できないからな?」
言い終えるのと同時に俺は動いた。
地面を蹴ってパラサイト・センチピードに接近する。
パラサイト・センチピードのほうも地面を叩いて加速した。
お互いに正面からぶつかる。
パラサイト・センチピードは大きな口を開けて捕食態勢に。
片や俺は、ただまっすぐに魔剣レーヴァテインを振り下ろした。
二つの質量がぶつかり合い、——爆発を生む。
爆発は俺の魔剣による効果。引き出された魔力が極限の威力を発揮する。
黒羽根の剣ではかすり傷くらいしかつけられなかったパラサイト・センチピードが……魔剣レーヴァテインの一撃を喰らって吹き飛ばされた。
今回は放たれる炎を前方のみに限定した。
指向性は効果の集束を意味し、前回よりもレーヴァテインの火力が上がっている。
結果、パラサイト・センチピードを五十メートル以上もの遠方へ吹き飛ばし、当たり前のように草木を消滅させた。
残ったのは黒コゲの地面と、体の三割ほどを消し飛ばされた——魔物の亡骸だけ。
それ以外はもれなく魔剣の熱量に負けて灰となった。
「わーお……」
改めてこの武器は人に向けちゃダメなやつだと分かる。
大量の魔力こそ消費したが、その一撃は軽々と大型の魔物を殺す。
攻撃系スキルが無い?
ささいな問題だ。魔剣レーヴァテインを振ればたいていの敵は倒せる。
チュートリアルめ……厄介で頼もしい武器をくれたものだな。
そう思いながらも魔剣レーヴァテインを収納用の空間に送る。
新たに黒羽根の剣を手元に戻し、くるりと踵を返した。
視線の先には怪我を負ったアリサがいる。
彼女は地形すら薙ぎ払う俺の一撃を見て、目と口を大きく開きながら絶句していた。
近づいて声をかける。
「おい、無事かアリサ」
「——へ?」
アリサは俺に話しかけられるとすぐに意識を取り戻す。
だが、何か困惑している様子だった。
「どうして私の名前を……? 最近噂のオニキス様……ですよね?」
「あ」
やべッ。すっかり忘れていた。
俺は相手のことを知っているが、相手は自分の名前が知られていることを知らない。
さも当然のようにアリサの名前を呼んでしまった。
お互いに初対面のはずなのに。
「それは……たまたまだ」
上手い言い訳が見つからず、俺は適当な嘘が口から出る。
するとアリサは、その嘘を追及する前に——急にばたりと倒れた。
俺は驚く。
「あ、アリサ!? 大丈夫か!?」
彼女のそばに寄る。
体の状態を確認すると、どうやら出血と傷、——それにパラサイト・センチピードの寄生虫に寄生されていた。
傷口に小さな虫のようなものが見える。
「チッ。さっきの攻撃で寄生されてたのか……しょうがないな」
この場合、熱を使って寄生虫を殺すのが一番手っ取り早い。
なぜなら寄生虫は熱に弱い。50度くらいのお湯でも死んでしまうほどに。
だが、逆にそのまま放置すると一時間ほどで寄生虫が成長し彼女は死ぬ。
俺は熱を出す小物なんて持ってない。この状況でアリサを助けるには……また、魔剣の力が必要だった。
「魔力を使わずに傷口を焼くしかないな……許してくれ、アリサ」
すぐに行動に移す。
アリサの傷口に燃焼の効果がある魔剣レーヴァテインを押し当てた。
傷口が焼けて寄生虫が死んでいく。同時にアリサにもダメージが入り彼女は叫んだ。
「あああああッ!?」
かなりの激痛だろう。
それでも俺は彼女を助けるために魔剣を手放すことはなかった。
そしておよそ一分。
すべての寄生虫が死んだことを確認すると、残り少ない魔力でアリサに治癒スキルを発動した。
リオン? 彼の分はない。さっさと探して担いで会場に戻るしかなかった。
———————————
あとがき。
ぶっちゃけ魔剣強すぎぃ!
そしてフラグは立ったかな……?
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