母のことが大好きだった少年、知識を求めていたら目的と手段が逆転したようです

カマキリキリ

序章 悪の目覚め

第1話 ツヅリ

 魔法が発達した世界のとある小さな村に少年はいた。少年の名前はツヅリ、9歳にしていてはどこか大人びた雰囲気をしていた。

 彼はこの村で母であるシリカと共に生活をしていた。父は数年前、魔物と戦った時に死んでしまった。

 この村では魔物を討伐してくれるような騎士様もいない。自給自足が常の村、しかし村人たちは互いに協力して何とか生活を行ってきた。

 だからこそだろう、男子として生まれてきた以上、武術や魔法、それに勉学にも様々な大人たちが力を出し合いながら子供たちを成長させて行った。

 ツヅリは自身の才能を遺憾無く発揮していく。それをあまりよく思わない友達からはいじめを受けていた。

 彼らもツヅリには力で叶わないことを知っている。だから物を隠すだったり、除け者にするだったりと回りくどいやり方をする。


(なんでそんなことするんだろう?)


 ツヅリは意味がわからなかった。それにそれだけの事で目くじらを立てる必要性も考えられず、ツヅリはずっと無視をしていた。そんなツヅリも年頃らしく猫に夢中だった。今は自室で猫と戯れている。


「ツヅリ、また猫と遊んでいるの?」


 そんな彼を心配してくれる、愛してくれる唯一の存在が母であるシリカだった。父が亡くなったストレスだろう、髪は白い。だがその長く白い髪がツヅリは好きだった。


「うん。猫が気になってね。」


 もっぱら最近の興味は猫にあった。自分とは違い四足歩行であり、食べるものも違う。野菜なんかを上げてみたが、どうやら人間が食べられるものと猫が食べられるものは違うらしい。前なんかは舐めた瞬間吐き出したり、食べて死んでしまった野菜もあった。


「少しは友達と遊んだら?」

「あの子たちとはいいんだ。それよりナイフ貸してくれる?」

「ナイフ?まあ怪我しないでよ」


 シリカは自分が持っていたナイフをツヅリに渡す。それが彼女の失敗だった。ツヅリは受け取ったナイフを猫の首に突き刺した。


「ツヅリ!何してるの!」


 シリカが慌ててツヅリからナイフを取り上げる。ツヅリは不思議そうな顔をしていた。なぜ母が悪魔を見るような目でこちらを見ているのか分からない。


「なぜって?僕は知りたいだけだよ。猫の体ってどうなってるのか。なんでそんな顔するの?」


 最愛の母から向けられる嫌悪の目、それがツヅリは酷く悲しく、母に問いかける。近づこうとすると。


「近寄らないで!悪魔!」


 尻もちをつきながらシリカは後ずさる。その様子を見たツヅリはかなりのショックを受ける。


「お母さん?本当にお母さんなの?」


 ツヅリはわからなかった。たった1匹の猫を殺しただけでなぜあんなにも恐れられるのか。いや、あんな目を向けている人間の心が知りたくなった。


「お母さんの方こそ、悪魔が取り付いているんだよ。」


 ツヅリは悪魔が母に取り付いたと結論付ける。悪魔を取り外そうとツヅリはシリカの持っていたナイフを奪い取ると首を一突き。


「母さんから出てけ!」


 その後も何度も何度もナイフで突き刺した。部屋中に母の血が充満する。目の前の母の亡骸からは涙が流れていた。


「お母さん?死んじゃったの?」


 不思議と涙は出ない。今は悲しむ気持ちよりも好奇心が強かった。心がどこにあるのか、なんであんな表情をしたのか、人間の体はどうなってるのか。

 ツヅリは母の体を解剖した。どこに何の臓器があるのか、体はどこまで曲がるのか色々なことを試した。


 そんなことをしているともう時間は夜になりすっかり暗くなる。


「お腹すいた。どうしよう。」


 周りには解剖した母の肉、ついでに確認した猫の死体がある。料理は母の手伝いでやったことがあった。ツヅリはまだ小さな手を一生懸命動かし、それらの肉を調理した。


「悪魔に取り憑かれたけど、僕とずっと一緒に生きてよ。」


 ツヅリは猫の肉と母の肉を平らげたのだった。

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