僕にだけ甘い剣道部の女部長〜体調を崩したら、毎日弁当を手作りして持ってきてくれるようになった件〜

路紬

第1話 体調を崩したら先輩が家に来てくれた

「葉月くんの昼食は栄養が偏り過ぎている。明日から私が君の弁当を作ってくるから、昼休みに剣道場に来ること。いいね?」


「え……あ、はい」


 僕の名前は葉月鷲はづきしゅう。白金高校に通う高校一年生、剣道部に所属している。


 僕は目の前で剣道着姿で素振りをしている女子生徒にそんなことを言われて目を丸くしていた。


 彼女の身長は百七十センチほど。凹凸がしっかりとある抜群のスタイル。特に後ろで一本で纏めた長い黒髪は刺激が強すぎるほどで、白いうなじには油断していると視線を釘付けにされかねない。


 それでいて容姿端麗ときた。スキンケアを怠っていない白い絹のような肌、茶色く二重が特徴的な瞳、薄い桃色の唇、顔を構成する要素の全てが神様によって作られたんじゃないかって思うくらい完璧だ。


「……って、いきなり何を言うんですか一条先輩! べ、弁当って……! そんな大変なこと!」


「自分の弁当を作るついでだ。一人分作るのも、二人分作るのも大して変わらない。それにな、君に体調を崩される方が、剣道部の部長としてよほど困る事態なんだ」


 彼女の名前は一条綾華いちじょうあやか。白金高校二年生にして剣道部の部長兼エースだ。


 この白金高校は文武両道を掲げ、ありとあらゆる部活が優秀な成績を収めている。一条先輩もその優秀な成績を叩き出している生徒の一人だ。


 そんな剣道部はある事情から現在とてつもなく過疎っており、部員は僕と一条先輩の二人しかいない。


「部員募集とかしましょうよ。流石に僕だけじゃ一条先輩の練習になりません……!」


「募集はしたさ。でもここは元々剣道部はないようなものだったし、剣道なんて暑苦しい競技人気も出ないだろう」


 自嘲気味に笑う一条先輩。一条先輩はそう言っているが、実のところは少し違う。


 練習内容がかなり過酷なんだ。一条先輩は入学以来、ほぼ一人で練習してきた。そのため、他人の練習の度合いがわからず、超スパルタな練習を科され、それを前にして多くの人が脱落していったのだ。


「でもやっぱり、部員募集すべきです。未経験の僕じゃ一条先輩のレベルアップにも繋がりませんし……」


「まあそれは考えておこう。だが今は君のことだ。君の食生活はあまりにも不健康すぎる……! それでも男子高校生なのか君は!?」


 話を捻じ曲げられた上に、僕にとって嫌なところを掘り返された。一条先輩はシェイカーに入ったドリンクを飲み干した後、僕にビッと指を向けながらそう言う。


 不健康な食生活……それには少し心当たりがある。それも僕の昼食はたまたま今日、昼休みの時に一条先輩に見られてしまった。それがこの話のきっかけだろう。


「惣菜パン一つと牛乳……!? いつの時代の男子高校生の昼食なんだ君は! 君がハードな生活を送っているのは知っている……なら、私に早く相談してくれれば良かったじゃないか!」


「熱くなりすぎです! 少し落ち着いてください先輩!!」


「いいやだめだ。君にはハッキリと言っておく! 君はもっとこの私を頼るべきだ! 私は先輩で君は後輩! 困っていたら助ける! これは当然のことなのだからな!」


 食い気味に怒涛の言葉を浴びせられる。


 一条先輩は僕の私生活について大体は理解してくれている。それを心配してのことだろう。けどどうしても一条先輩の忙しさなどを加味すると、申し訳なさの方が勝ってしまう。


「す……すみません! バイトの時間があるのでこれで失礼します! 弁当のことは大丈夫です! では!」


「あ……ちょっ……!!」


 僕はバイトを理由にしてその場を立ち去る。一条先輩に気まずくなって逃げてしまった自分のことを恥じたい。


 僕の家庭は裕福とはいえない。僕は部活をした後バイトに行き、帰宅するのは夜遅い時間帯。土日もほとんどバイトと部活漬けの毎日だ。


 大変な生活だと思っているが苦と感じたことはない。一条先輩は僕のことを心配してくれるけど、僕としてはこれくらいのこと、全然平気だ。


 ……と思っていた自分が馬鹿でした。


「三十八度……今日は流石に休まないとなあ」


 翌日の朝。僕はベッドの上で体温計を見つつそう口にする。連日の無理が祟ったのか、僕は高校入学して以来初めて体調を崩した。


 頭がガンガンする。関節の痛みがとにかく酷い。自分の部屋を出て、リビングに行くと母が置いていったのだろう作り置きのお粥と薬があった。


 自分が使っているレインというSNSアプリに母からのメッセージが届く。


『仕事で夜遅くなるのでそれを食べて、薬飲んで寝るように。それとインスタントが台所にあります。夜はそれを食べてください』


「お母さんの方が大変なのに……すごいよな親って」


 母のいう通り、お粥を食べて薬を飲んで寝る。寝てからどれくらい経過しただろうか。僕はスマホの通知音で目が覚める。


「お母さんかな……?」


 レインのアプリを開く。するとそこにはとんでもない量の未読メッセージがあった。全部一条先輩のもの。多過ぎて数字が99+って表示されている!?


「一条先輩に何も言ってなかった……! 心配してるよなあ……?」


 未読メッセージを読んでいく。それはお昼休みの頃から始まり、今に至るまで数分単位でメッセージが送られてきている。


『既読になったな。担任教諭から事情は聞いた。今君の家に向かっているところだ。少し待て』


「ちょっえ、はあ!? この人なんで見て……というか、今僕の家に向かってる!?」


 あまりにも唐突すぎる出来事に驚いていると、ピンポーンと家のチャイムがなり、新しいメッセージが届く。


『家に着いた。開けてくれないか? それともまだ開けられるほどの余裕はないか? 君のために色々と買ってきたのだが……』


 そんなメッセージと今鳴り響いたチャイム。玄関の向こう側に一条先輩がいる。その事実に僕は体調不良ではない別の理由で心拍数を上げていた。



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