第15話 強者の風格
ユーチア学園の一角に集まる数名の生徒。
その数名の中にレグロスはいた。
(ここにいる人達が今日から一緒に任務を受ける人達……)
知ってる顔も混じってはいるが目を引くのはやはり上級生。
その中でも際立って強い雰囲気を持つ生徒がいくらかいるのは嫌でも感じ取れる。
確かに、こういう人たちと共に任務をこなすというのは普段とは違う経験を得られるだろう。
(ま、そこばかり気にしてもいられないんだけど)
今回は訓練ではなく任務。
つまりは達成すべき仕事があるのだからそれもまた当たり前だった。
しっかりと仕事をこなしつつ己の経験も積む。
両方をやらなければならないのは少々大変ではあるが文句も言ってはいられないだろう。
「レグロスさん、考え事ですか?」
なんて考えているところへ声をかけてきたのはティアハだった。
前回の任務と違い誘ったわけではないのだが、どうやら彼女の方もたまたまこの任務を受けていたらしい。
だから、というわけではないが今回はヴァルクやジィルの姿はない。
彼らの性格を考えればジッとしてるとも思えないので恐らく今頃は別の任務を受けている事だろう。
「いえ、ちょっと気合いをいれてたってだけですよ」
「先輩方もいますもんね……私も足を引っ張らないようにしないと」
「ティアハさんの技術は有用だから大丈夫な気もしますけどね」
実際前回の任務も彼女の力があって助かったところは多々ある。
が、すぐに自信を持てというのも無茶だろうとは分かってはいた。
「そうそう! ティアハちゃんはもっと自信持ちなよー!」
「きゃっ!? フェ、フェロウさん!?」
そんなティアハに背後から飛びつく形で抱きついてきたのはフェロウ・グスティ。
ここにいると言うことは彼女もまた同じ任務を受けるのだろう。
「レグロスくんもやっほー! 今日からよろしく!」
「えぇ頼りにさせてもらいます」
底抜けに明るいタイプである彼女。
こういう場を明るくしてくれる存在もまたありがたい。
少なくとも自分では出来ないだろうな、などと考えているうちに声が響いた。
「集まった生徒達は一旦こちらに注目だ」
落ち着いた声音。
声を主はトニス・チテア。
前回の任務を受ける切っ掛けにもなった真面目な先生だ。
「これから我々は調査へと向かう、地図には目を通してあるな?」
任務を受ける事が決まった時に送られてきた地図。
そこにマークが刻まれた点が一つあったのを覚えている。
「近場に拠点と出来そうな町はない、なので我々はその地点に調査用の拠点を設立する。それが最初の仕事だ」
そう言ってトニスは明らかに重そうなバッグをいくつか地面に置く。
拠点設立に必要な道具一式であろう事は言わずとも分かる。
さらにトニスはそして、と話を続けた。
「この任務、教師である私も同行はするが実質的なリーダーは彼に任せる事となっている」
そう言って動くトニスの目線。
それに応えるように動き出してトニスの横に並び立つ一人の男子生徒。
「紹介に預かった――上級生のグストル・バリートアだ」
自分とは歳が一つしか違わないとは思えないほど落ち着いた声音。
だがそこには確かな力強さが感じられた。
なによりも――。
(あの先輩……相当に強い)
探ろうとせずとも伝わるほどに圧倒的な強者の風格。
その強さに無意識に拳を強く握ってしまっていることに気付き、我が事ながらレグロスは驚いた。
――これほどの力強さを感じ取ったのはいつ以来だろうか。
まるで初めて本気となった師を見た時と同じような感覚だ。
(少なくともこの間、僕達がやられかけたあの壊人よりずっと)
――もしかしたら師匠がこの任務を勧めたのはあの先輩が参加するからなのだろうか。
などと思わず考えてしまったが、その辺りは今は置いておく事にした。
とにかく任務、これが最優先事項であることに変わりはない。
「調査任務だからといって気を抜きすぎるな、常に複数人での行動を意識しろ」
グストルと名乗った上級生は落ち着いた状態のまま淡々と述べていく。
移動の陣形、今日の予定、目的地に到着後の行動。
それらをしっかりと叩き込まれレグロスを含めた生徒達もそれに賛同する。
「よし――では出発だ」
そう言って歩き出すグストル。
その背中を追うように他の生徒も歩き出した。
(あの先輩から学べる機会があるなら……色々学んでみたいもんですけど)
ひっそりとそんな事を考えつつレグロスもまた歩を進める。
目的は調査拠点設立予定地。
レグロスの新たな任務が本格的に始まりを告げた。
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