第11話 勇者の力

 サフェロ・ユリーヴァ。

 各国により認定を受け勇者の称号が与えられた数少ない人物。

 そんな男の登場に他の面々は驚いていたが一番驚愕に包まれていたのは弟子のレグロスだった。


「なんでここに……」


「君らの後ろを付いてきてたんだよ、気づかなかっただろ?」


「勇者のくせに学生のストーカーしてたんですか」


「あからさまに悪意のある表現やめてくんない?」


 思わず昔からのノリで会話が続くが今はそんな事をしている場合ではなかった。

 現に彼らの目の前には負傷してるとはいえ壊人が佇んでいる。


「サフェロ……ユリーヴァ……!」


「おや、もしかして壊人の方にも名前が知れ渡ってるのかな? 光栄なことで」


 ケラケラと笑うサフェロに対し壊人はその表情を強張らせる。

 確かにサフェロの名は壊人達の間でも広く知られている。

 ただし人族ヒュニアらとは違う形で。


「ま、そりゃ知れ渡ってなきゃ可笑しいか。君らの同族を結構な数狩ったわけだし?」


 人でありながら数多の壊人達を次々と倒しその命を狩った者。

 それこそが勇者サフェロのもう一つの側面。

 そんな男が目の前に立っているという事実に壊人は僅かながらに恐怖を感じた。


(ふざけんなよ……! なんでそんな奴が出てくるんだよ!)


「さて……こっちも壊人君らと仲良くお喋りする趣味ないんでね、始めようか」


「チッ……!」


 即座にちぎれ飛んだ腕を再生させる壊人。

 それと同時に脳内では無数の考えを巡らせる。

 どうすれば勝てるか、あるいはどうすれば逃げられるか。

 その結果に選ばれた選択肢は――。


BeShシュッ!」


 宙に跳んでからの全力砲撃。

 流石に相手が格上であってもこれだけの力を込めた一撃だ。

 当たればダメージになるという自信と確信がある。

 仮に防いだり避けられたとしても土煙が上がり目くらましになるだろう。

 上手く行けば逃走の役に立つはずだ、そう考えた。

 対してサフェロは自身に迫る砲撃をその金色の瞳で見つめている。

 その表情には動揺などは一切存在していなかった。


「――」


 小さな声でサフェロが何かを呟く。

 何を言っているか聞き取れた者は誰もいなかったが異常はすぐに発生する。


「な……」


 壊人がありったけの出力で放ったはずの砲撃。

 それが――消し飛んだのである。

 何の音も立てることなく、サフェロは指先の一本とて動かしていない。


(次元が……強さの次元が違う!)


 そしてその光景は己と目の前にいる勇者の力量の差。

 それを自覚させ魂に刻み込むには十分なものだったのは言うまでもない。


(やっぱり師匠は強い……色々アレなところはあれど強さは本物だ)


 当然、その強さを間近で見続けて生きてきたレグロスに驚きはなかった。

 だが昔より成長しているからこそ分かる、師との間にある絶対的な差。

 己の夢を叶えるためには、それを超えなければならないという事実に思わずため息が零れた。


「で? もう終わり? それならもうトドメ刺しちゃうけど……あ、壊人達の拠点とか居場所とか教えてくれるなら寿命延ばしてあげてもいいよ?」


「誰が教えるかよ!」


「そ、残念」


 言葉でこそ残念と言っているがサフェロは終始笑みを崩さない。

 そういう返答を返してくることは予想できていた。

 あくまで今の提案は念のために聞いたというだけ。

 そしてなんの情報も吐かないのならば最早、目の前の壊人を放っておく理由はなかった。


「くそがァッ!」

 

 壊人側も最早ヤケクソだった。

 逃げきれるビジョンは欠片も浮かばない。

 もう一縷の望みを賭けて攻撃を仕掛ける以外にやれる事はないのだから。

 レグロス達を追い詰めた腕の振り下ろしを伴う技法術アーツ、それを行うために壊人は突撃しながら腕を振り上げる。


Zer――」


「生憎だけど」


 だが技法術アーツの名を叫ぶ途中。

 サフェロのその言葉で壊人の言葉は断たれ技法術アーツの発動は叶わなかった。

 何故なら――。


「もう終わってるよ?」


「は……?」


 また音はなかった。

 気がついた時には壊人の右腕がちぎれ飛んでいた。

 それとほぼ同じタイミングで今度は左足。

 そのまま時間差もなく左腕、右足と順々に断たれていき、そして――。


「君……壊人達の中ではそんな強くなかったね」


 そんな煽りを口にするサフェロの笑みを、その眼に映しながら壊人の意識、そして命は途絶えた。

 なにが起こったか、など当人には理解出来なかっただろう。

 だがそれを見ていたレグロス達には分かる。


「えげつねぇ……」


 思わずヴァルクがそう呟いてしまうほどの光景。

 壊人は両腕、両足だけでなく頭部も消し飛ばされて地に伏していた。

 これまではずっと再生を繰り返していたが、どうやら頭部を破壊されてはどうにもならないらしい。


「あれが勇者か……」


 ジィルが珍しく感情を多めに込めた言葉を零す。

 果たしてその内にある感情がどういったものか、まではジィル以外には読み取れない。


「相変わらず高い壁ですよ、本当に」


 そしてレグロスは――慣れ親しみ、これまで散々見せられてきたその背中を見て嬉しそうに、同時に悔しそうに呟いたのだった。

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