第7話 謎の変化
「ヌース!
「チッ……」
レグロスの一撃により大きな爆発が発生した直後、トウは地面に衝撃を撃ちこんで土煙を上げた。
自然と視界が悪くなりヴァルクもティアハも足止めは出来なくなる。
そんな中でトウは土煙の中を必死で進み吹き飛ばされ倒れたままのヌースに駆け寄った。
「兄……ちゃん……」
ボロボロだ。
スピリットを大量に込めて防御したはずなのに。
ある種生きているのはラッキーとも言える。
だがそれも実のところレグロスが威力を調整した結果である。
「ガキども……! 許さねえぞ、後悔させてやる!」
「貴方達が町の人達苦しめたのが事の発端でしょうに」
「う、うるせえ!」
言い返したがどう考えてもレグロス側が正論であった。
しかし正論あろうが今、トウがレグロス達に憤りを感じているのは事実。
最初は油断があった、そこはトウも認めるところだ。
数の上で不利でも学生になど遅れを取らないという慢心があった。
その結果がこれだ。
「俺は……俺達は負けねえ! 負けねえんだ! 負けちゃいけねえんだよ!」
もう形振り構ってなどいられない。
例え身勝手だろうとトウは自分の全てを使って目の前の敵を叩き潰すと決意した。
そしてポケットに入れてあった手の平サイズの謎の球体を口に含み一気に飲み込む。
「今のは……?」
レグロスには今飲んだものの正体は分からない。
止める間もなかった。
何かの薬だろうか、などと考えているうちに異変は起こる。
「グウゥ……ヌアアアアッ!」
『!?』
雄たけびを上げながらトウの目つきが変わった。
それだけではない、雰囲気も。
なんなら感じるスピリットの勢い、その質に至るまでがガラリと変化した。
こんな現象を四人は見た事がない。
「あいつ、一体なにをしたんだ?」
「分かりませんが……警戒、強めておいてください」
僅かだが自身が嫌な汗を掻いているとレグロスは自覚する。
それほどに今のトウからは嫌な感じを受けたのだ。
(そもそもスピリットはその者が持つ命、魂から発されるもの……急にこんな変化をするはずが――!)
疑問は尽きなかった。
だがそれをある程度整理する時間など与えられるはずもない。
トウが高々と腕を振り上げる。
「
「まずっ――!」
指示を出す間もなく全方向広範囲へ強い衝撃が飛んだ。
地は抉れ、空気は揺れ、その衝撃はレグロス達を纏めて吹き飛ばした。
「ぐ……っ」
吹き飛びながらもレグロスは剣の柄を強く握りしめる。
咄嗟に防御しつつ後ろに跳んだのが幸いしたのか思いのほかダメージは少ない。
体勢を立て直しつつ地面に剣を突き刺して勢いを殺す。
そのまま両足で地面をしっかりと踏みしめた。
それと同時に眼に映るのはこちらへと近づいてくる影。
仲間の安否も確認したかったがその余裕はなく、レグロスは剣を地面から抜き構えをとる。
「くたばれエェッ!」
先ほどとはまるで違う速さ、力強さをもって接近してくるトウ。
「
「は……?」
だがそんなトウの視界からレグロスは姿を消す。
動体視力も向上している、にも関わらずその姿は完全には捉えきれない。
「速――ぐがッ!?」
出来上がった隙を突き、すれ違いざまの一閃。
トウの左脚部からは鮮血が吹き出し片足を負傷した事で僅かながらにバランスが崩れた。
そこへ続けざまに襲い掛かる後頭部への強い衝撃。
「ギ……っ」
今度はトウの体が勢いよく吹き飛んで地面を転がる。
レグロスの
その威力は並の攻撃系
と、
「レグロスさん、大丈夫ですか!?」
「えぇ……皆さんの方は?」
「問題ねえよ、思いの他ぶっ飛ばされちまったが……もう無様は晒さねえ!」
「見たところあいつはまだやる気だ、油断するな」
ジィルの言葉通り、トウはゆっくりと起き上がる。
タフネスも上がっているのだろう、想定していた程のダメージは与えられていないようだった。
それよりも――。
「グウゥ……ルアアアッ!」
「早期決着……といきたいところですが」
トウから感じる圧は時間が経過するごとに強くなってるように思えた。
加えて先ほどよりも理性まで薄れているように見える。
何かを得るのに代償が必要、なんていうのはよくある話。
恐らくこのままいけばどうなるかなんてここにいる四人には容易に想像出来る。
「
『ッ!』
再度放たれた広範囲衝撃波。
それを四人は脚部に力を込めて跳び上がる事で回避する。
地を叩いて放つ以上、空中への効果は薄いのだろう。
そのまま地面に着地すると同時、四人は駆けだした。
対してトウもまた接近戦を狙うのか突撃する。
「オレが最初に行くぞ!」
「無理はしないでくださいよ?」
返事する事もなく一番最初にトウとぶつかり合ったのはヴァルク。
トウの振るうナイフを左の手甲で受け止めてヴァルクは肉体に力を込める。
「
瞬間、強化されるヴァルクの力。
トウがそれに驚く間も与える事なくヴァルクの右拳が胴へと深々とめり込んだ。
「ご……ッ」
「まだまだァッ!」
続けて叩き込まれる連打。
そのいくつかを防いではいるものの防げない分は確実に大きなダメージとして蓄積されていく。
さらに――。
「
別方向から迫って来るジィル。
その短剣は高速回転するスピリットを既に纏っていた。
トウは強化された己の肉体及びスピリットを用いてヴァルクの攻撃共々どうにか防いでいく。
だが流石にこれ以上は無理だった。
「オラァッ!」
「ふ……っ!」
やがて二人によって防御は打ち崩されトウの両手が上へと弾かれる。
そうなれば胴体はがら空き――そこへ最後の攻撃要員が現れる。
「……!」
「これで……終わりです」
瞬時にトウの懐へと潜り込んだレグロスは既に剣を振る構えに入っている。
負ける――そんな言葉がトウの脳裏に過ぎった。
(ここまでやって……こんなガキどもに……! いや――!)
「まだだ……ッ!
『っ!?』
だがここに来て予想外が二つ。
一つは大技であったはずの
追い詰められた事による咄嗟の行動だったが確かにこの時、トウは己の限界を超え今までに出来なかった行動を成功させた。
結果として衝撃は少し離れた位置で構えつつ警戒していたティアハを除いたレグロス達三人を飲み込む。
「レグロスさん! ヴァルクさん! ジィルさん!」
響くティアハの叫び。
ここでもう一つの予想外が姿を現す。
「……なに?」
思わずトウの口から間の抜けた声と共に疑問が零れた。
確かに
それなのに。
「言ったでしょう、これで終わりですって……!」
レグロスは頭部などから血を流してはいてもトウの目の前から動いていなかった。
よく見ればその足は地にめり込んでいる。
当然その目は欠片も死んでいない。
すぐに思考力を取り戻し、脳が防御をしろと訴えかけてくるがもう遅かった。
「
大量のスピリットを込めた刃。
その必殺の一撃がトウへと横薙ぎに振るわれ――轟音と共に光の柱が天高く上がるのだった。
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