第24話 シチナ・ランプロス①
トントン。
前回の依頼から五か月後。
ノックの音が聞こえ、フィーネは作業の手をとめる。この音がした時の客は、人間だ。
昼寝にちょうど良い時間。だが、フィーネは睡魔に打ち勝ち、最近後回しにしていた部屋の片付けを行っていた。
「少し待って下さい!」
客に断りを入れ、すぐに準備に取りかかる。
準備とは言っても、ローブを着て、フードを被るだけだった。
まだ少し散らかってはいるが、片付けるよりも早急に出た方が良いだろう、と判断する。
ドアに駆け寄り、ノブを回す。
「お待たせしました! クロッツへようこ……って、ディアン!」
「お久しぶりです、フィーネさん」
ドアを開けると、背が高く少し影のある爽やかな美青年、ディアンがいた。青藍の瞳に、長めのサラサラな黒髪がミステリアスな雰囲気を醸し出している。左耳のみピアス穴が開いており、青い半透明の小さな立方体、という少し変わったモチーフのものを付けていた。
しかし、良く見れば、今日はラフな格好に剣を所持している、という装いだった。
それでもなぜか決まって見え、『これだから顔が良いやつは』と心の中で皮肉を言ったのは秘密である。
「ちょっと! お客さんだと思ったじゃない!」
フィーネが睨みつけると、ディアンはいたずらっぽく笑いだした。
「すみません。久々だったので、引っ掛かってくれると思って」
そう言うと、彼はフィーネの横を通り抜けて家に入り、客用の二人がけの椅子に座った。
「そんなに久々だったかしら」
依頼がなければ、いつも変わらない日々を過ごすフィーネ。彼女の時間の感覚は狂っている。
フィーネはドアを閉めてから、ローブを脱いだ。
「お茶は?」
「飲みたいです」
返事を聞いてキッチンへ移動する。
魔石の埋め込まれたポットを出すと、お湯を沸かし始めた。
「いつもので良いでしょー?」
「良いですよー」
戸棚に手を伸ばし、茶葉を出す。
種類はオリジナルのもの。庭で育てたハーブと茶葉を乾燥させ、使用している。
ハーブは料理だけでなく、ポーションの材料など幅広く使えるため、育てて損はない。
透明なポットに茶葉を入れ、お湯を注ぐ。
茶葉が舞い、湯が染まっていく。
フィーネがお茶を淹れることが好きな理由の一つは、これを見ることができるからだった。
少し湯気が立つ程度まで冷ましてから、彼の元へ戻りお茶を提供した。
「どうぞ」
「ありがとうございます。……美味しいです。この味が好きなんですよね」
「それはそれは」
フィーネは一旦キッチンへ戻り、自分のお茶も用意してから彼の正面に座った。
「今日はどうしたの?」
ディアンはカップを置いてから答える。
「いえ、これといった用は無いです。二週間ほど休暇が取れたので。実に三か月ぶりの休みです」
三か月ぶりの休みではある。が、それは一日や二日間などの短期休暇である。長期間の休みは実に一年ぶりだ。彼は長期休暇でしかここにやってこられない。
「……何が言いたいのかしら?」
重そうな荷物を持っていた事から大体予想はつくが、一応聞いてみた。
すると、ディアンはにっこりとしながら、
「泊めて下さい」
と、思った通りの発言をした。
「家に帰れば良いでしょう」
「そんな意地悪言わないで下さいよ。僕の家は」
ドン!
ドアの方から音がした。このタイミングで客が来てしまったが、どうしたものか。
「僕に構わず出て下さい」
「ごめん、ありがとう。そっち移動してくれる?」
ダイニングテーブルの方へ移動してもらう。
彼はダイニングチェアへ腰をおろすと、部屋をゆっくりと見回しながらお茶を飲み始めた。
フィーネはそれを見てからドアへ向かう。ノブを掴み、開けた。
「ようこそ、クロッツへ! お入り下さい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます