第11話
ドラゴニュートの槍が俺の顔面に向かってくる。
動けない俺は咄嗟に目を瞑り、額のあたりで「パキィーン!!!」という音と稲妻が光った。目を瞑っていたのに、確かに稲妻が光ったのがわかった。
これはアレだな。
槍が俺の額を貫いたということだろう。衝撃が俺の感覚として音と稲妻に変換されたのだと。一瞬で命を刈り取られたので俺は死んだことにも気づかないまま、魂だけがこの場に取り残されたのだろう。今のこの思考は肉体を持たない魂だけの思考なのではないかと。
体の痛みは一切感じない。痛みどころか体の感覚すらない。何も聞こえない。痛みも恐怖も感じさせずに、一瞬で命を奪うドラゴニュートの腕に感謝したいぐらいだ。
しかし「
う~ん・・・死んだときというのはこんな感じなのだろうか?こんなにいろいろ考えていられるもなのかな。誰かがお迎えにでもくるのだろうか。
わからん。死んだことがないから。塩酸漏洩では死んだわけじゃないし。・・・死にかけたけど。
とりあえず恐る恐る目を開けてみることにした。
何と!!!
俺の目の前でドラゴニュートの槍の切っ先が止まっている。
あれ?貫かれたんじゃなかったの?
槍に触れないようにゆっくりと右に体をずらしてみた。体に感触はなく、視界だけがずれるというか。幽体離脱?
体ひとつ分ぐらい動いたところで、振り向いて俺がいたところを見た。
・・・俺がいた。
は?どゆこと?あれは本体?
それならば今の俺は幽霊?・・・チンプンカンプン。
手や足を動かしてみた。思うように動くし、動かしたように視界に入る。視界も今までと全く変わらず、見たい方に顔を向けなければいけない。幽霊だからと言って360度全方向が視認できるわけでもないのか。
次に深呼吸。・・・息を吸うことも吐くこともできない。そもそも肺の感覚がない。幽霊だからか?
身に着けているものも変わらない。白い防塵着に保護帽に・・・とにかく白づくめだ。ある意味お化けらしいというか。顔に大きな目玉と口を書いて、頭から毛を3本立てるのもいいかもしれない。
周りを見てみる。何も動いてない。パソコンがフリーズしたかのように、固まっている。
ちょっと触ってみようかな。ドラゴニュートは怖いから、城門の方で固まっている白づくめの魔導師にしてみようか。
意識を魔導師の一人に向ける。スーッと音もなく滑るように移動することができた。ホントに幽霊みたい。
魔導師の顔の前に手の平を向けて、ヒラヒラと動かす。うん、やはり止まったままだ。
意を決して魔導師の肩に手を置いてみる。ありゃ、突き抜けた。俺の手が白装束の体に埋まっていく。思い切り殴るように両手をブンブン振り回すが、何の感触も得られない。
何だかVRみたいだ。
いつまでたっても周りは動く気配がないので、いろいろやってみた。
今の俺はどこにでも行ける。意識を上に向ければ空も飛べる。地中にだって潜ることもできる。ただし地中に潜ると真っ暗で何も見えず、どこにいるのかわからなくなる。
とにかく今の状態では動けるだけで何もできない。何ひとつ周りに干渉できないという方が正しいか。ドラゴニュートにもちょっかい出してみたが、何も起きなかった。
ドラゴニュートの背後から背中を指でちょんちょんつついてみる。
「ちっとは動けよ。動け」
ドガアァァァァ~~~ンッッッ!!!!
突然ドラゴニュートが動きだし、前方から爆風が巻き起こった。
俺はびっくりしてしりもちをついていた。
ドラゴニュートが突き出した槍の衝撃で、石畳が5mほど抉れている。先ほどまでいた俺の本体(?)は跡形もなく消えていた。
あんなの喰らってたら、俺なんか肉片すら残ってないぞ。
あ、そういえばもう地面に触れている。体中の感覚が元に戻った。というか体のあちこちがメチャメチャ痛い。お漏らしの生暖かい感触も復活した。
目の前から俺が消えたことに気づき、ドラゴニュートはキョロキョロしている。 あ、やべ。見つかった。
ドラゴニュートはすごく驚いたように右目を大きく開き、口は半開きだ。
「$@#???」
何を言っているのかはわからないが、目の前の俺が消えて後ろにいるんだから、そりゃ驚くよな。俺だって何をしたのか何が起きたのか、てんでわかっていないんだから。
「*+×¥」
やばい!!これ、さっきの水の魔法と同じ呪文だ。
「ちょっとタンマ!ストップ!ストーップ!!」
しりもちをついたまま両の手の平を相手に向けて、顔をそむけて目を瞑りながら叫んだ。
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