クジビキ魔王部のクリスマス・ウォーズ! ~アタリが出たら魔王です~

ヨドミバチ

9月初旬

1本目 予定はキャンセルッ! 【Ad.6】


 十三日置きだ。


 だから28に赤丸をつけた時点でありゃと思った。暗算せずに日付を数えてみたが、予感どおり数字の11を丸で囲む羽目になる。十一足す十三は、24日だ。


「……こりゃあ、ハズレか、アタリか」

「どうした?」


 壁かけのカレンダーをめくりあげ、最後のページをながめて固まっていれば気づかわしげな声がかかる。部室にあてられているこの空き教室にいま、放課後集まっているのは、自分のほかはまだひとりだけ。


 流支ながしソーメはカレンダーを持ちあげたまま振り向いた。

 使わない机や椅子はすべて端に寄せてある。教室の真ん中にあるのは、なぜか野外の公園などに置かれていそうな木とアイアンのベンチだ。あしに布をかませてあるだけあって、重くて固くてぶつかると痛い。


 座っているのは、スラリと背の高い同級生。

 色白のおでこを見せる真ん中分けで、長いうしろ髪は白いシュシュでサイドテールにしている。伸びた背すじに等しくりんとしたおもむきの黒髪美人だ。

 襟元えりもとには一年生を示す赤色リボン。指定の緑色ジャンパースカートはきっちり着ているが、シャツのそでは二の腕までめくってわざわざバンドでとめている。その二の腕の片方には『生徒会』の赤い腕章わんしょう


「……重くね?」


 ソーメは、聞かれたことには答えず逆に聞いてみた。

 足先までそろえて座る美人――山口やまぐち千枝ちえの膝の上には、濃い紫色をしたボウリングボール大の球体が乗っている。


「うん?」

「膝」

「あ。ああ、いや。貯金箱みたいで、落ちつくから……」

「はぁ……」


 気恥ずかしそうに苦笑いをして、千枝はボウリングをなでさすりはじめる。光沢があり固そうな表面だが、白い手がさするたびにピクピクと動いているようだった。よく見るとガラスびんの口のようなものが上に付いていて、大きなコルクせんらしきものもそこにはまっている。


「それで、流支はなにが……」

「見なよ」


 ソーメはめくったぶんのカレンダーをより高くあげて、12月のページがよく見えるようにした。


「クリスマス・イヴにクジビキだ」

「あ。うわ、ほんとだ……」


 ベンチに腰かけたまま、千枝は黒板わきの掲示板にあるA4カレンダーを見てうめき声をあげた。千枝は目がいい。


「しかも今年は日曜日か。みんな予定入れたいだろうな……」

「いーんじゃね、無視っといても? ウチも弟次第だし」


 ソーメは肩をすくめると、手をカレンダーから離してパーカーのポケットに入れた。

 制服の上にはいつもパーカー。水色なのに妙にやぼったい。


 ソーメは髪だって明るい紫に染めている。加えて水玉リボンの青いカチューシャ。けれどオンザ眉毛のおかっぱ髪に、常に半びらきで眠たげな目が合わさると、大人しそうと人には言われる。またそれでいて、口をひらけばぼうな性格がダダれた。


「そうもいかないだろう?」と他方、千枝は見かけどおりの実直さで柳眉りゅうびをひそめる。


「みんなして予定がありそうなら、話し合わないと。都合がある人はしかたないが……」

「千枝も予定あんの?」

「いや。うちはじいちゃんとばあちゃんだけだから、なにかするとしても昼間のうちだな。ふたりとも早寝早起きだ。まぁだから、はわたしが来てもいいんだが」

「もったいな。デート行き放題じゃん」

「相手がいない」

「出た出た」

「なんでだよっ? ボーイフレンドなんか、お金がかかってしょうがないんだろう?」

「サイフのでかい男にコクられたらコロリと行きそうな価値観だ」

「タカるのはよくない」

「十万出すとよ」

「こ、断るっ!」

「口にやけてんぞ?」


 にやけてなぁぁぁい、とこぶしを振りあげながら千枝は耳まで赤くなりはじめていた。たやすすぎてイジリがいのない同級生をソーメは冷めた目でながめる。


 そのソーメが、廊下ろうかを軽快に走ってくる足音に気づいたのと、あけっぱなしの出入り口に白い人影が飛び出してくるのがほぼ同時だった。


「そぉぉぉめぇぇぇぇぇぇッ!」


 居丈高に人を呼びつけながら、白衣のすそがひるがえる。


 ソーメとそう変わらないが、少し小柄に見える体格。長い髪も真っ白で、新雪のようにしっとりとやわらかそうな質感。右にひとふさだけ取った髪の結び目には、黄色と黒の警告色な縞々しましまリボン。


 だが彼女においては、そのまぶしい白髪しろかみさえも特色ではない。

 同じ頭から上に向かって生える、青黒く太ましい二本ヅノ。

 ふしくれ立ってねじれながらも、とがった先端は天を刺す。


 窓から入る陽気の光に、その光沢ある両ヅノと、フチなし眼鏡が照りかえす。


 薄いレンズの向こうにのぞくのは、くりくり目玉のこはく色アンバーカラー。ソーメの姿をくっきり映し、彼女の水玉リボンをまっすぐ目がけ、白衣のそでがズバッと伸びた。


ッ! ホワイトチョコチップメロンクリームパン、十個買ってこぉぉぉぉぉいッ!!」


 ソーメは目を見ひらいた。白衣の少女が叫ぶが早いか、ツノが妖しく光りだす。

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