妬み嫉み
「ゆうくん、ゴールデンウィークは何しよっか!」
さて、早いものでついに待ちに待ったゴールデンウィークに突入した。
あれやこれや、学業という呪縛から一時的に解き放たれた若人は楽しい時間を過ごすことになるだろう。
そんな学生である俺も、久しぶりの長期休暇。とはいえ、今日はスタジオで撮影。珍しく一緒の現場になっている姉さんの姿も見える。
そのせいで、休憩の時間であるにもかかわらず騒がしくなってしまった。
「……そのセリフって、ゴールデンウィーク前にするもんじゃね?」
「え? だってゆうくんだったらいつでもフリーかなって」
誰か、この「間違ってた?」と素直に首を傾げる姉を殴ってほしい。
こうして撮影してるのに予定がないボッチ扱いをしてくる失礼な姉には躾をしないと。
「ゆうくんのスケジュールは……今日と明日の午前、最終日で、榊原くんが明後日に遊びに来るから、一日はイチャイチャできる」
「しねぇよ」
身内同士でイチャイチャとか頭おか……ちょっと待て、なんで話してもないのにスケジュールを知っているんだ?
「っていうか、そのうちの休み一日は友達の家に遊びに行くから」
「ダウト!」
「全部本当だわ!」
友達がいることであろうが予定があることだろうが、どこを嘘だと断定しても大変失礼な姉である。
「あら、予定埋まってるのね」
その時、マネージャーと話していた多々良さんがやって来る。
こうして仕事で三人が揃うのも久しぶりだ。いつもは多々良さんとばかりだったのに…………いらねぇな、姉さん。
「いや、一応明日の午後は空いてますけど、どっか行きます?」
「あら、いいの?」
「えぇ、多々良さんですし」
「お姉ちゃんは!?」
お姉ちゃんはいらないかなぁ。
「ふふっ、嬉しいこと言ってくれるじゃない。前は嫌がっていたのに」
「俺が嫌がっている部分は女装することだけですしね。着替えさせてくれるなら、別に問題も───」
「女装したままで行くわよ」
「Oh……」
機嫌をよくしたら許してくれると思っていたのだが、どうやら現実はそう甘くないらしい。
……もしかして、このゴールデンウィークは女装しない時間の方が短くなる可能性があるのでは?
「はいはいっ! お姉ちゃんも一緒に行く!」
「でも、楓ってこの前大学の子とその日遊ぶって言ってなかった?」
「ゆうくんのためなら、ドタキャンをもいとわない……ッ!」
「俺は是非ともいとわってほしい!」
どれだけ弟にこだわっているんだ、この姉は。
「っていうか、そもそも私……あんまり乗り気じゃなかったんだもんー」
姉さんが俺の覆い被さりながら、憂鬱そうに呟く。
ウィッグがズレるから、せめて体勢を変えてほしいものだ。
「その友達嫌いなの?」
「嫌いっていうか、あんまり関わったことない人。んで、サークル活動って名目の合コン」
「あー、そういうこと」
姉さんの話を聞いて、多々良さんが納得する。
別に合コンいいじゃないかと、俺は思わず首を傾げた。
すると、そんな俺を見て多々良さんが姉さんの代わりに応えてくれる。
「合コンっていうけど、ぶっちゃけ興味がない側からしてみたら面倒なのよね。ただお酒飲むかご飯食べるかだけになるし」
「他の女の子達とお話しようにもあっちは本気だし。邪魔しちゃ悪いなーって壁際にいても男の子が話しかけてくるし」
「何よりも厄介なのは、一緒に来た女から嫉妬されることだわ。こっちは露骨に「興味ない」って言っても、やっかみとか出てくるし」
「へぇー、そういうもんですか」
なんとも生き難い世の中である。
ただ出席しただけでそこまでそんなに言われるとは、女の世界は恐ろしい。
「自分で言うのもなんだけど、私達って容姿が整ってるじゃない?」
「まぁ、めちゃくちゃ綺麗っすよね、多々良さんは」
「…………そ、そう? ありがと」
「ゆうくん! お姉ちゃんも容姿整ってると思うの!」
「なるほど、容姿が整っている人間の弊害ってやつですね」
「無視!?」
確かに、自分がチヤホヤされないのに他人がチヤホヤされていたらいい気にはならないだろう。
愚痴を零したり、陰口を叩いたり、露骨に嫌な視線を送ってきたり。
そう考えると、容姿がいいのもいいことだけではないのかもしれない。男でよかったと素直に思ってしま……いや、最近男達からよく嫉妬の視線を受けるな。桜坂達と一緒にいると。
(ってことは、桜坂達も同じようなことをされたりするのか……?)
三大美少女と呼ばれるぐらいに、彼女達は容姿が整っている。
大学で起こることが高校では起こらないとは思えないし、もしかしたらそういうことが起こっている可能性があった。
(いや、妬まれたりしている話って聞いたことないし、それはないのか)
あくまで、今の話は合コンという男女の恋愛を目的とした場所だから起こるもの。
極力異性と関わろうとしていない桜坂達には関係のない話なのかもしれない。可能性はあるとは思うが。
「っていうわけで、お姉ちゃんはドタキャンしてゆうくん達と遊びます!」
「えー」
「異論は認めません!」
後ろから「ぎゅー」と、わざわざ口にしながら力を強めてくる姉さん。
それが鬱陶しいこの上ないのだが、今の話を聞いて素直に断ることができなかった。
『それじゃ、撮影再開しまーす!』
カメラマンさんの声がスタジオに響く。
それを聞いた俺は、ゆっくりと姉さんごと腰を上げるであった。
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