コーディネート
高校生の放課後というのは、長いようで短い。
仕事をしている人間よりも早く帰宅するとはいえ、夜遅くなるまでには帰らないといけないのだ。
故に、やらなければいけないことはさっさと済ませる。
というわけで、俺達はOIOIの中にある店の一つへと早速入っていった―――
「じゃじゃーん! どう、竜胆くん?」
我先にと、試着室から桜坂が姿を現した。
もちろん、ご要望通りコーディネートは俺。普段の派手さを控え、コバルトブルーのワンピース一つに絞ってみた。
普段の派手さとのギャップが相まり、大人びた落ち着いた雰囲気がなんともグッとくる。
「いいんじゃないか? やっぱり素材がいいから何着せても似合うよな……あとは色を押さえたサンダルとトートバッグみたいなアイテムを加えればより落ち着いて見えるぞ」
「そ、そっかぁ……」
フリルのついたワンピースを翻し、桜坂は薄っすらと頬を染める。
もしかして、褒められて照れているのだろうか? 桜坂であれば、誰からにでも言われ慣れているだろうに。
「わ、私これを買うねっ!」
「おう……そうか。でも、俺が選んだだけだし別に自分の買いたいやつでも―――」
「竜胆くんの選んだやつがいい!」
そう言い残し、勢いよく試着室のカーテンを閉める桜坂。
その態度が気になり、俺は思わず首を傾げてしまう。
「なぁ、そんなによかったか?」
「ぶっちゃけ、詳しくない人間からしても似合ってるコーディネートだと思った」
なるほど、桜坂はあの服を気に入ってくれたのか。
ならば少しだけ鼻が高い。こうやって気に入ってもらえたのであれば、自分のファッションセンスを褒められたような気分になる。
「私も着替えました」
続いてカーテンが開けられて姿を現したのは楪だ。
カジュアルさをメインとしつつも、遊び心を出すためにブラウンのマウンテンパーカーを。白のロゴTシャツにジョガーパンツを履くことによって年相応かつ女らしさを際立たせていた。
上品、かつお淑やかな楪だからこそ、一風変わったコーデは一際周囲の人間よりも味が出る。
「楪もだいぶ似合ってるな」
「ふふっ、ありがとうございます。竜胆さんのセンスがいいだけですよ」
「そうか?」
楪も俺が選んだコーデではあるが、やはり元の素材がよすぎるのがあるだろう。
どれだけ流行りを踏襲したとしても、着こなせる着こなせないはどうしても出てしまう。
こうして選んだものが違和感なくばっちり似合っているのは、彼女達が活かせるような容姿をしているからだ。
「私もこちらにしますね。せっかく選んでくださったので」
楪も、カーテンを閉めて試着室へと戻っていってしまった。
二人が出てくるまでの間、俺は榊原が座っている椅子の横へと腰を下ろす。
「……なんで俺が三大美少女様方のお洋服を選んでいるのかね?」
「え、今更?」
いや、確かに今更ではあるのだが。
ただ、関わりたくないと思っていた人間とここまで関わってしまったことの原因を探りたくなってしまう。
「嘆いている割には、随分とノリノリだったような気がするけど」
「ぶっちゃけ、楽しかった」
「中学の時の竜胆に聞かせてあげたいセリフだね」
きっと、今のセリフを聞かせたら「男の魂を忘れたか!?」と拳を添えた
すまない、中学生の頃の俺。お兄さんはもう汚れてしまったよ。
「お待たせー! そんでもうちょっと待っててー!」
そう嘆いていると、制服に着替え終わった桜坂と楪が同時に出てきた。
そして、すぐさま先程まで着ていた服を持って店の奥へと向かっていく。
「お会計だけ済ませてきますので」
「うん、行ってらっしゃい」
ペコリと頭を下げる楪に、榊原は小さく手を振る。
俺がいなければ、客観的に今の光景は美男美女カップルのデートの一幕だっただろう。
代わってほしいわけではないが、何故か妬ましく感じる。不思議だ。
「しっかし、桜坂が変なことを言いださなくて安心したわ」
試着室前で待っているのもなんだからと、俺は腰を上げて店の外へと足を進める。
「どういうこと?」
「いや、この前「yukiに会わせて!」って言われたからさ、正直どっかで強請られると思ってたんだよな」
「あぁ、そういうこと」
こうして買い物に付き合わされている時点で振り回されてはいるが、yukiのことを挙げられないだけでまだマシだろう。
同じくファンだと公言している楪もいることだし、余計なことは言わずにこのまま買い物が終わってほしい。それか、言ったことを忘れてくれたらなおよしだ。
「でもさ、竜胆も墓穴を掘ったよね。yukiが妹なんて、どっかのタイミングで嘘だってバレそうなものだけど」
店の外に出て、柵に持たれながら榊原が笑みを浮かべる。
「仕方ないだろ、あの時はそれらしい言い訳とか思いつかなかったし。あいつ、ほぼ確で俺がyukiだって勘付いてたぞ?」
「別に僕は言ってもいいと思うけど。桜坂さん、天然そうに見えて約束事とかしっかりと守ってくれそうな子だし」
「いやいや、一つのミスで大事故になる可能性も捨てきれん。可能性を潰せるなら、潰すに越せることはない」
「その割には、女の子以上に詳しいコーディネートテクニックを披露してたような?」
「……モデルとしての衝動が、な」
「あははっ、もう立派に女装に目覚めちゃってるじゃん―――」
「度々お待たせー!」
榊原と話していると、二人が紙袋をぶら下げてやって来た。
どうやら無事に会計を済ませてきたようだ。
「よし、終わったなら解散するか」
「あら、もう解散されるのですか?」
首を傾げているところ申し訳ないが、俺的には早く君達と別れたいところなのだ。
目敏く勘がいい女の子があなたの横にいらっしゃるわけだし。
「っていうわけで、お疲れ様でしたー」
首を傾げる楪を無視して、俺は二人に背中を向ける。
その時、急に俺の腕が小さい華奢な手によって掴まれた。
「ねぇ、竜胆くん……」
その華奢な手の持ち主は、小さな声で俺に向かって口にする。
何故か、その先をまだ言われていないにもかかわらず……俺の背中に悪寒が走った。
「もし帰るんだったらさ───」
そして———
「これから、竜胆くんのお家にお邪魔させてよ!」
俺の全身から、冷や汗という冷や汗が吹き上がった。
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