第四章 ~『マスクを外した顔』~


 ケビンの訪問から三ヶ月が経過したが、彼に大きな動きの変化はない。


 アルフレッドの部下が監視しているが、街の教会で信者に宣教する毎日を過ごしているそうだ。まるで何かが起きるのを待っているかのようで、かえって不気味だった。


 一方、オルレアン公爵家では大きな変化があった。アルフレッドの治療が進んだのだ。


「今日、マスクが取れそうですね」

「やっと素顔を君に見せられる日が来たのだな」


 談話室のソファに腰掛けるアルフレッドに、エリスは回復魔術をかける。癒やしの光を浴びせていると、マスクの上からでも呪いが消えているのが実感できた。


「これで目の呪いは完全に消えたはずです」

「では、マスクを外すとしよう……ガッカリしないでくれよ」

「しませんよ。私はアルフレッド様の外見ではなく、優しい内面を好きになったのですから」

「私もだ……君の温かい人柄を愛している……おかげで勇気を出せるよ」


 エリスなら素顔に落胆したとしても受け入れてくれるはずだ。そんな信頼があったからこそ、アルフレッドはマスクを外すことができた。


「これが私の素顔だ」

「~~~~~ッ」


 驚愕で呼吸が止まりそうになるほどの美丈夫だった。黄金を溶かしたような金髪と澄んだ蒼の瞳に加えて、きめ細やかな白い肌、彫刻のような整った顔立ち。すべてが美しい。


「どうだろうか……」

「とっても素敵です!」

「エリスから褒められると嬉しいな」


 アルフレッドは恥ずかしそうに頬を掻く。その仕草も凛々しさの中に愛らしさが滲んでおり、エリスの心臓を高鳴らせた。


(絵本の王子様、いえ乙女ゲームの攻略キャラ以上ですね)


 前世でやりこんだゲームのキャラクタを超えるビジュアルだった。こんな美しい容姿がこの世にあるのかと存在を疑いたくなるほどの美形だ。


(でも、この人が私の婚約者なのですよね)


 ゴクリと固唾を呑む。誇らしいとさえ思える容姿に、口元が緩むのを抑えきれなかった。


「これもすべてエリスのおかげだ。感謝している」

「ふふ、もう少しで完治ですね」

「残るは心臓周辺の呪いだけだからな」


 完治すれば、正式に婚姻を果たす。二人の意識と目的は共通していた。


「残りの治療、頑張りましょうね」

「エリスにも苦労をかけるが、よろしく頼む」


 エリスたちは立ち上がって抱きしめあう。ギュッと腕に込められた力から愛情が伝わり、幸せを感じられた。


「失礼します。よろしいでしょうか?」


 侍女が扉をノックする。仕事の予定は入っていないため、急な用件だと察する。入室を許可すると、扉を開いて、頭を下げた。


「どうかしたのか?」

「お客様がいらっしゃいましたが、いかが致しましょうか?」

「アポイントなしか……いったいどこの誰だ?」

「ロックバーン伯爵家のご令嬢、ミリア様です」

「――――ッ」


 婚約者を奪い取ったミリアが襲来してきたのだ。動揺を隠しきれず、手に汗が滲む。


「エリスの妹がどういった用件で?」

「それが会ってから話すと……」

「そうか……エリスはどうしたい?」

「……会います。いつまでも過去のしがらみに囚われているわけにはいきませんから」

「決まりだな」


 ミリアの訪問理由は分からないままだが、逃げるような真似はしたくなかった。久しぶりの宿敵との再会に、エリスは闘志を燃やすのだった。


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