第三章 ~『自然公園でのデート』~


 デートに出かけると決めたエリスたち。だが呪いによって醜いと馬鹿にされ続けてきたアルフレッドは、公務での外出なら仕方ないと受け入れてきたが、見知らぬ人の前に顔を晒すことにまだ抵抗があった。


 そのためリハビリも兼ねて、街ではなく、屋敷から近い自然公園を訪れることになった。


 人が少ないのは、肌寒い秋風が吹いているからだろう。中央に大きな池のある閑散とした公園で、エリスたちは肩を並べて散歩していた。


「鴨さんが泳いでいますね」

「水鳥たちにとっても憩いの場になっているのだろうな」

「……鴨さんたちは水が冷たくないのでしょうか?」

「確か、足だけ体温を低くして、温度を調整していると本で読んだことがあるな」

「さすが、アルフレッド様。博識ですね♪」

「呪いで動けなかった時は読書で暇を潰していたからな」


 だからこそ自分の足で動けるようになったことを喜んでいたし、それ以上に治療してくれたエリスには感謝していた。


「あ! あそこに屋台がありますね」

「ホットドッグという幟があがっているな。何でも伝説の聖女がこよなく愛した料理だそうだ」


 聖女はエリスと同じく現代知識を持っていた。ホットドックもその知識を活かして、この世界に広めたのだろう。


「アルフレッド様は食べたことありますか?」

「いいや、ないな」

「なら一緒に食べましょうか?」

「ああ。きっと良い思い出になるな」


 屋台の店主に二つ欲しいと伝えると、パンに豚の腸詰めを挟んだ馴染みのあるホットドックが提供される。


 さっそく食べてみると、口の中で肉の脂とパンの甘みが調和した。


「美味しいですね♪」

「さすが聖女の好物だ」


 アルフレッドの口元から笑みが溢れる。彼の嬉しそうな表情だけで、エリスの心は穏やかになった。


「お二人は夫婦かい?」


 屋台の店主が声をかける。エリスたちはまだ婚約状態で、正式な婚姻まで至っていない。どう返せばいいのか迷っていると、店主は言葉を続ける。


「お似合いだね」

「そ、そうだろうか」

「美男美女の羨ましくなるようなカップルだ」


 お世辞だとしても思わず口角が上がってしまう一言だった。


 ホットドックを食べ終え、店主に礼を伝えると、二人は再び歩き始める。周囲に誰もいないからこそ、穏やかな空気が流れていた。


 だからこそ僅かな機微も感じ取りやすい。隣を歩くアルフレッドが上機嫌なのが伝わってきた。


「褒めていただけて嬉しかったですね♪」

「化け物扱いされていた頃の私なら、お世辞でもあんなことを言われないだろうからな」

「アルフレッド様……」

「だから、私は君の隣に立つ自信を持てた……手を繋いでもよいだろうか?」

「むしろ私からお願いしたいくらいです♪」


 繋いでほしいと心の内では想っていたため、エリスは迷わず同意する。アルフレッドが伸ばした指先から温かい感触が広がっていく。絡めた手が彼と繋がっているのだと教えてくれた。


「本当はもっと早くに手を繋ぎたいと伝えるべきだった……だが醜い私の隣を歩くことで、君を馬鹿にされたくなかったんだ……」

「ふふ、先程の店主さんに感謝ですね」

「公務なら感謝状を送りたいほどだ」


 心臓の鼓動が早鐘を打つ。エリスたちはそのまま散歩を続けた後、互いの心を読んだようにベンチに腰掛ける。


 両手はまだ繋がれたままだ。二人とも頬が赤く染まっていた。


「静かだな」

「はい……」


 肩を寄せる二人は周囲に誰もいないことを確認し、視線を交わらせて見つめ合った。


 手を繋ぐ時とは違う。アルフレッドは問いかけるような真似はしない。血色の良い唇を互いに近づけ、とうとう一線を超えようとした。そんなときだ。


「にゃ~」


 足元に白い毛並みの子猫がいることに気づく。雰囲気が崩れたが、二人はただただ笑い合った。


 焦る必要はない。これからもチャンスはあると知っているからこそ、余裕ある笑みを零すのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る