第三章 ~『アルフレッドとの朝食』~
いつもの朝食のためにダイニングへ向かうと、アルフレッドが待ってくれていた。彼はエリスよりも早起きなので、先に座っていることが多い。だがいつだってエリスを笑顔で出迎えてくれる。
(私も頑張って早起きしないとですね)
意気込みながらも、朝が弱いため容易ではない。前世では目覚まし時計を三台設置して乗り切っていたが、この世界にはそんな便利な道具もない。
侍女に起こしてもらうこともできるが、手間を取らせるのも申し訳ない。自力で目覚めたいが、どうしても朝だけは克服できずにいた。
「おはよう、エリス」
「おはようございます、アルフレッド様。シャーロット様は?」
「狩りに出かけている。今日は二人っきりの朝食だ」
椅子に腰掛け、テーブルの上に広がった朝食にゴクリと唾を飲む。ハムとチーズを挟んだホットサンドだ。エリスの好物の一つだった。
「美味しそうですね~」
「私が焼いてみたのだ。味を確かめてくれるか?」
「はい♪」
エリスはナイフで切り分けると、それを口の中に含む。とろけるほど濃厚なチーズと、ハムの脂の旨味が舌の上で調和していた。
「とても美味しいです!」
「隠し味にブラックペッパーを混ぜたんだ。どうやらそれが上手く作用したようだな」
アルフレッドも朝食を満足そうに楽しんでいる。呪いに侵され、食べ物が喉を通らなかった頃を思えば、彼が美味しそうに食事する姿だけで嬉しくなった。
「空間魔術の修行はどうだ?」
「順調ですよ。今では自由自在に狙った映像を映し出せるようになりましたから」
「それは興味深いな」
「実演しましょうか?」
「ああ」
「ではシャーロット様を映しますね」
アルフレッドの要望に応え、エリスは空中に映像を投影する。そこには剣を構えるシャーロットの姿があった。イノシシの魔物と向かい合いながら、殺気を放っている。
「あの魔物は……」
「レッドボア。赤毛が特徴のイノシシを起源に持つ魔物だ。本来なら温厚な性格のはずなのだがな……森に住む魔物が凶暴化しているという噂は本当らしい」
均衡状態を崩したのはレッドボアからだった。勢いよく突進し、シャーロットに襲いかかる。
その突進をシャーロットは華麗に躱し、剣を振るう。切っ先が見えないほどの音速の剣が舞い、レッドボアはその場に崩れ落ちた。
「今晩は牡丹鍋だな」
「楽しみですね」
無事にレッドボアを倒したことに、エリスたちは安堵する。そんな彼女の視界の端に一匹の影が通り過ぎた。
(先程の影……猫でしょうか?)
しっかりと視認できたわけではなく、目の端に映っただけだ。だが妙に印象が頭に残った。
「エリス、どうかしたのか?」
「い、いえ、なにも……」
「そうか……なぁ、提案があるんだが、もし都合が合うならデートしないか?」
「デートですか⁉」
思えば嫁いできてから一度もしたことがなかった。呪いのせいで杖を付いての外出になる。そのため仕方がないことではあるが、エリスも内心では一緒に出かけたいと願っていた。
「喜んで♪ 私も好きな人とお出かけしたいですから」
「決まりだな」
思わぬ楽しみができたと、エリスは鼻歌を奏でる。素敵な一日の始まりを予感するのだった。
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