第二章 ~『回復魔術の有効利用』~


 街遊びを楽しみ、リフレッシュできたため、翌日以降はいつものように魔力を消費する鍛錬を再開した。


 花瓶を壊して回復魔術で修復。その後、自分の肉体の魔力を元通りに戻す。このサイクルを日が暮れるまで繰り返していた。


(魔力を消耗することが目的とはいえ、無意味な回復魔術の使用には心が擦り減りますね)


 穴を掘って埋める作業が軍隊でシゴキに使われているように、生産性のない行為は心を蝕む。折角なら回復魔術を役立たせたかった。


(怪我人の治療を買って出るのはどうでしょう……いや、駄目ですね)


 不特定多数の人間にエリスが回復魔術を使えると知られてしまう。今はまだ秘密にしておきたかった。


(屋敷の中で貢献できるといいのですが……)


 使用人たちならば助言をくれるかもしれない。そう考えたエリスは廊下で窓を拭いていた侍女に声をかける。


「あの、少しよろしいでしょうか?」

「はい、なんでしょう」

「この屋敷に壊れて困っているものはないでしょうか?」

「……私は存じ上げませんね」

「そうですか……」

「ですが、奥様なら何かご存知かもしれません」

「一理ありますね……シャーロット様はいまどこに?」

「この時間なら畑にいらっしゃると思います」


 屋敷の裏手には大規模な麦畑があった。いつもなら黄金の稲穂が輝いているのだが、台風による塩害を受けて土壌は荒れていた。


 その麦畑の中心で、シャーロットは石灰を撒いていた。塩のナトリウムと石灰のカルシウムを化学反応させて除塩しているのだ。魔物狩りを楽しんだり、畑仕事に勤しんだりする姿勢は、貴族の令嬢らしからぬ振る舞いだった。


「シャーロット様!」

「あら? どうしたの?」

「少し聞きたいことがありまして……」


 花瓶を割って鍛錬を積んでいる現状と、役に立てる使い方をしたいと説明すると、シャーロットは顎に手を当てて首を傾げる。


「う~ん、すぐには思いつかないわね」

「案外、見つからないものですね……」

「公爵家は見栄も大切だから、家具や調度品が壊れたら、すぐに修理しちゃうの」

「そうですよね……」


 役に立てる場面が見つからず、無力感で俯く。荒れた大地は彼女の心の心境を表しているかのようだった。


(あれ? もしかして……)


 直感が頭を過る。エリスはしゃがんで、手の平を土に押し当てた。


「エリスさん、どうかしたの?」

「ちょっとした実験です」


 回復魔術が手の平から放たれる。癒やしの輝きが大地を照らし、ひび割れが収まっていく。


「まさか、これって……」

「塩害被害を治療しました。私の回復魔術の使い道が見つかったんです」


 これで魔力増加の鍛錬で、無駄に魔力を浪費する必要もなくなった。


「畑は私に任せてください。黄金の麦穂を育てられるように私が回復させてみせます」


 オルレアン公爵家の役に立てる。やりがいを得たおかげで、魔力量増加の鍛錬がより円滑に進むのだった。


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