第一章 ~『アルフレッドとの対面』~
廊下を進み、辿り着いたのは突き当りにある部屋だった。まるで隔離されているかのようだが、その誤解はすぐに解ける。
「ここが医務室よ。元々は私の部屋だったんだけれど、息子に譲ったの」
「特別な部屋なのですか?」
「窓から庭の景色が見えるのよ。息子は歩くのも一苦労だから、景色くらいは楽しませてあげたかったの」
「シャーロット様は優しいですね」
「私の息子はもっと優しいわよ」
「それを聞いて、ますます会うのが楽しみになってきました」
「なら対面といきましょうか。覚悟はいいわね?」
「は、はい」
ゴクリと息を飲んでから三度ノックを鳴らす。「どうぞ」と返ってきた声は、しゃがれたハスキーボイスだった。
(でも悪い印象はありませんね)
声に優しさが滲んでいたからだ。扉を開けると、包帯で全身をグルグル巻きにした男が出迎えてくれる。顔は確認できないが、黄金を溶かしたような金髪と澄んだ蒼の瞳は健在だった。
「はじめまして、アルフレッド様。私はロックバーン伯爵家から嫁いできたエリスです」
「こちらこそ、はじめまして。君が来てくれることを楽しみにしていたよ」
アルフレッドは杖を付いて立ち上がる。足がフラフラと揺れているのは、呪いのせいで全身から軋むような痛みを感じているからだろう。
「醜い姿に落胆したかな?」
「いえ、そんなことは……」
「遠慮しなくていい。私は自分が醜いことを自覚している。それに両手両足も痛みで動かすのに苦労するほどボロボロだ。私はもう欠陥品なのさ」
「アルフレッド様……」
「ただこんな私を愛してくれるなら、生涯をかけて幸せにすると誓う。少なくとも心だけは君にとって理想の夫でありたいからね」
この一言にアルフレッドの人格が現れていた。きっと彼は呪いが解けたとしてもエリスを裏切らないだろう。そう信じられるだけの重みのある言葉だった。
「幸せにするのは私の方です」
杖を持つアルフレッドの手を優しく握りしめる。触れることが嫌ではないと伝えるのに、言葉以上の説得力があった。
エリスなりの配慮がアルフレッドの心に刺さったのか、目尻から涙が溢れた。包帯を濡らし、全身を震わせる。
「こんな私を……っ……君は本当に愛してくれるのか?」
「あなたと結婚するために嫁いできましたから。それにたった一日だけの滞在ですが、私はオルレアン公爵家が大好きになりました。使用人の皆さんは優しいですし、シャーロット様も私に婚約を破棄しても良いと許可をくれました。私のことを留めておきたいだけなら、こんな提案はしません。本当に私を大切に想ってくれているのだと感動したんです」
「…………っ」
「だから私を大切にしてくれたオルレアン家の皆さんのように、私もあなたを大切にします。これからは夫婦として二人三脚で頑張っていきましょう」
「あ、ああ……っ……」
アルフレッドの涙は止まらない。そんな彼を慰め、エリスに感謝を伝えるため、シャーロットは二人をギュッと抱きしめる。
「私達は家族になるわ。これからはずっと一緒よ」
「は、はい」
シャーロットのぬくもりから家族の暖かさを感じ、この縁談は間違っていなかったと改めて実感するのだった。
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