第78話 迫る魔法使い
イルデさんの様子がおかしい。
明らかに屋敷の外を警戒している。
それに、動揺しているようにも映ったが……この状況でそんなリアクションが出るということは、俺たちがもっとも警戒する事態に直面したっていうのか?
もっとも警戒する事態――それはこのパルザン地方周辺に潜伏している謎の魔法使いがこちらへ攻め入ってくるというもの。
だが、ヤツは俺の魔道具によって位置を特定されている。今まさにモリスさんたちが身柄を拘束しに行っているはずだ。
魔道具に落ち度はなかった。
完璧に仕上がったはずだ。
念のため、俺はもう一度水晶玉を使って魔法使いの位置を確認する――と、
「問題ない……」
水晶玉に映しだされた地図に示された魔女の場所……そこはモリスさんたちに見せた時と何ひとつ変化はしていなかった。
ホッと息をついたのはほんのわずかな時間だけ。
地図を眺めていた俺はあることに気づく。
「こ、これは……」
イルデさんが気にかけている屋敷の近くに目をやると、なんとそこにも魔法使いの存在を示すマークが出てきたのだ。
「ど、どういうことだ!?」
思わず声をあげると、ロミーナとイルデさんが反応する。
「な、何かあったの、アズベル……」
「……どうやら、私の嫌な予感は的中したようだね」
困惑するロミーナと、疑惑が確信へと変わって気を引き締めるイルデさん。
とにかく、俺は地図上で起きた不可解な現象について説明する。
「同じ魔力反応がふたつ……それは妙な話だね」
「さっきまでひとつしかなかったのに……」
「これは推測だが、向こうは自分の位置を悟られる可能性も考慮して動いていたんじゃないかな。恐らく、最初に探知したのはフェイク――つまり偽物だ」
「に、偽物って……そんなことできるんですか!?」
「自分の魔力を込めた魔道具をその場に放置しておくとかね。きっと、本命はこの屋敷に近づきつつある反応だよ」
「な、なるほど……」
それなら誤って探知してしまう可能性もあるのか。
相手はかなり慎重な人物らしい。
――って、感心している場合じゃない!
こっちにも警備のために騎士たちがいてくれてはいるが、主力は魔法使いの身柄拘束を目指して出払っている状況だ。
「完全にしてやられたね。とりあえず、使い魔を送ってすぐにでも騎士たちには引き返すよう伝えなくては」
「お、お願いします」
間に合う可能性はほぼゼロに近いだろうが、それでも援軍が来てくれるとそうでないとではだいぶ違う。
あとは到着までになんとか無事でいられたら……やはり、俺も戦うしかないようだ。
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