第70話 魔法の杖の直し方
新たな魔道具づくりの前にひとつ仕事が増えた。
パウリーネさんとモリスさんの同期で、舞踏会の夜に起きた事件に関する資料を持ってきてくれる予定となっているミリーさん――彼女の壊れた魔法の杖を作り直す。
「でも、魔法使いの杖って難しいんじゃない?」
ロミーナの質問に答えたのはイルデさんだった。
「そうだね。だから厳密に言うと、作り直すというより復元するというのが正しいんじゃないかな。さっきも話題にあがったけど魔法使いがそれぞれ持つ魔力の質は違う。扱う者が常に最高の魔法を使えるようになる杖を作るのは並大抵の技術力では無理だからね」
「確か、一人前になるにはどんな才能のある人でも十年以上は修行をしないといけないんでしたね」
「詳しいね。その通りだよ」
かなり繊細な作業の連続となるため、今の俺の実力じゃミリーさんにマッチする魔法の杖は作れないだろう。まあ、そもそも会ったことないからできるかできないか分からないんだけどね。
「じゃあ、これまでに比べるとアズベルの負担は少なめね」
「うーん……こればっかりはやってみないとなぁっていうのが本音かな」
これまでも魔法庫を利用してさまざまな物を修繕してきた。
しかし、それは割れたお皿だったり、破れた服だったりと構造が単純な物ばかり。魔法の杖のように熟練の職人が手掛けた複雑な構造となると直すだけとはいえ、かなり苦労しそうだ。
本番の前に、少し試してみようか。
「あの、イルデさん――」
「修繕の練習をするために杖がいるというのだろう?」
「っ! ど、どうして! まさか――」
「魔法じゃないよ。話の流れと君の気真面目さを考慮したら、誰にだって思いつくさ」
イルデさんの言葉に、ロミーナもパウリーネさんもモリスさんも揃って頷く。俺ってそんなに言動を読まれやすい性格なのかな?
それはともかく、問題は練習用の杖だ。
「あるにはあるよ。そっちの部屋にもう使えなくなった杖がいくつか保存してあるから好きに持っていってくれ」
「ありがとうございます!」
とりあえず、これで今後の予定は大体整った。
俺は相手の魔力を探知するための魔道具づくりをメインに、ミリーさんの杖の修復も行っていく。
「問題は……魔法兵団が応じてくれるといいんだけど」
「その点は心配ないかと思います」
「パウリーネさん?」
抱いていた問題はたいしたことではないと言わんばかりにパウリーネさんが教えてくれる。
その理由は――
「彼女が了承すれば、組織などお構いなしに動いてくるでしょう」
「で、でも……」
「安心してください、アズベル様。ミリーというのはそういう女です」
「えぇ……」
ついにはモリスさんまで。
これはひょっとして……ミリーさんって結構クセの強い人?
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