第33話 一夜明けて

 波乱まみれの舞踏会から一夜明けた次の日。

 俺は目が覚めると、すぐにロミーナの部屋へ向かう。

 昨日、ヘレナ様と会って言葉を交わしてからずっと彼女と会って話をしたいと思っていた。具体的に何を話そうかってプランがあるわけじゃないけど、とにかく顔が見たいって気持ちだった。


「ロミーナ!」


 気がはやりすぎたため、配慮に欠けた行動だった。

 勢いよくドアを開けると、まず起き上がってイスに座っているロミーナが視界に入る。メイドさんのひとりが櫛で髪をとかし、パウリーネさんが腕を組みながらそれを見守っているという構図であった。


「う、うぅん!」


 まるで上等な絵画を眺めている気分に浸っていたら、パウリーネさんの咳払いでハッと我に返る。

 しまった。

 いくら婚約者とはいえ、女性の身支度をジロジロと見回すのは明らかなマナー違反。ごめんと謝って部屋の外へと出ようとしたら、


「待って。ここにいていいから」


 ロミーナからストップがかかった。


「もうすぐ終わるから、ちょっとお話しない?」

「お、俺としてはそうしたいところだけど……」


 チラッとパウリーネさんの表情をうかがう。

 彼女は俺と目が合うと、静かに頷いた。

 とりあえず、了承してもらえたとみていいのかな。

 恐る恐る前に出て、ロミーナに話しかけた。


「体調はどう?」

「もうだいぶいいわ。それより、カルロはどうなったの?」


 意外にも、ロミーナはカルロを心配していた。一時的に共闘のような格好となったが、もともと公爵家令嬢でもある彼女が貧民街のカルロに気にかけるというのは不思議な感覚だな。

 

 ロミーナ以外だと、マドリガル騎士団長くらいか。

 ――っと、そうだ。

 その件についても知らせておかないと。


「カルロなら大丈夫だよ。マドリガル騎士団長が捜してくれるって」

「マドリガル騎士団長が?」


 どうやらロミーナはマドリガル騎士団長と面識があるようだ――が、どうにも彼女の表情が冴えない。さっきまではいつもの通りとは言えないまでも明るさは戻ってきていたように映ったのだが……


「その件なのですが……アズベル様にお伝えしたいことが」


 神妙な面持ちでそう口にしたパウリーネさん。

 ……その反応で大体の展開が予想できた。


「国王陛下は今日の午前中に勲章授与式を行う意向のようです」

「ご、午前!?」


 もしかして、カルロを授与式に参加させないために?

 だけど、それで本当にいいのか?

 というか、国王陛下には正しい情報がキチンと渡っているのだろうか。マドリガル騎士団長は理解を示してくれたけど、門番や警備兵のカルロに対する態度を見る限りでは少数派のように思える。


 こうなったら……できるか分からないけど、俺が直談判に行くしかない。

 そう思った直後、部屋のドアを誰かがノックする。

 

「騎士団長のマドリガルです。入ってよろしいですかな?」


 来客は思わぬ人物であった。

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