第5話 冷めた物を温かくする方法
ついに始まったロミーナとの生活。
それは俺が思っていた以上に劇的な変化を見せていた。
そりゃずっと推しキャラである氷結女帝と一緒なのだからテンションも上がる。おまけに俺たちは婚約者同士という関係だ。
さらに、原作【ブレイブ・クエスト】では主人公たちをサポートする強力なスポット参戦キャラの魔女イルデまでついている。
ここまで揃えばまさに鬼に金棒。
パルザン地方の繁栄は約束されたも同然――と、言いたいところではあるが、浮かれてばかりもいられないんだよなぁ。
原作ではイルデさんは敵に回るし、なぜか俺やロミーナは主人公たちに倒される悪役側という扱い……そのフラグが完全にへし折れたとも思えない。破滅フラグを踏み抜いてしまわないよう、気をつけなくては。
この日もロミーナとイルデさんは朝から魔法の特訓に汗を流していた。
ちなみに、これが終わって回復した午後からは村を案内する流れになっている。
公爵家令嬢として大事に育てられてきたロミーナにとって、ガナス村は未知の魅力にあふれているのだという。言い換えれば、初の田舎暮らしに浮かれているというわけだ。俺が案内すると言った時も、凄く嬉しそうにしていたしね。
パウリーネさんやロミーナ専属メイドさんに紛れて俺も氷魔法が制御できるよう応援していた。
「よし。今日はこんなところだろう」
「ありがとうございました……」
特訓が終わる頃にはすでに疲労困憊といった様子のロミーナ。そりゃかなりのペースで魔力を消費したからなぁ。この状態では今日の村案内は難しいか?
日を改めようかと提案しようとしたら、それよりも先にイルデさんが口を開く。
「あと十分もすれば、彼女は元通りになるよ」
「えっ? どうしてですか?」
「彼女が人並外れているのは魔力量だけではなく、その回復量も段違いなんだ。これは天性の資質だろうね。魔法に携わる者としては羨ましい限りだよ」
そうなのか――って、そういえば、原作【ブレイブ・クエスト】でも、ボスキャラ版ロミーナはMPの自然回復って特殊能力がついていたな。あの設定はここから来ているのか。
イルデさんの言うように、ロミーナは少し休憩すると元気になった。
これで村の案内ができると喜び、早速キッチンへと移動。
なぜなら、料理長のダーネルさんが人数分のおいしいお弁当を用意してくれているからだ。
「ダーネルさ――ん?」
キッチンへ入ると、すぐにダーネルさんを発見。
だが、どうにも元気がない。
小さな丸椅子に腰かけ、まるで燃え尽きて真っ白になったボクサーのような顔つきをしている。
「えっと……ダーネルさん?」
「ぼ、坊ちゃん」
俺の顔を見るや否や、ダーネルさんはスッと立ち上がって深々と頭を下げる。
「申し訳ございません。このダーネル・フラクトン、一生の不覚です」
「えっ!? えっ!? ど、どうしたんですか!?」
いきなりの謝罪にわけが分からず、俺はひたする動揺する。
詳しい話を聞いてみると、お弁当のために用意していたパンに問題が発生したらしい。
「今日は新しく仕入れたパンを使ってサンドウィッチを作る予定だったのですが……このパンは放置しておくとどんどん固くなってしまう性質のようで、今はもうカッチカチになってしまったんです」
「た、確かに……」
あるよねぇ、こういうタイプのパン。
鈍器かよってくらい硬くなるヤツだ。
でも、そういったパンって……
「加熱すれば柔らかくなるのでは?」
「しかし、火を起こすとなったらかなり時間が……」
ここでは魔力を与えることで熱を帯びる魔鉱石を使用して料理をするのだが、こいつが調理するに適する温度まで上昇させるのには時間がかかる。イルデさんに頼んで炎魔法を使おうかとも思ったが――その時、ふと視界に飛び込んだのは以前作った冷蔵庫だった。
「そうだ。あれの応用でイケるかも」
「あれって、なんですか?」
「前に作った冷蔵庫さ」
「あぁ、あれはとても便利で重宝させてもらっていますよ。――って、まさか」
「そのまさか、さ」
冷やすことができるなら、その逆で温めることもできる。
それも、魔鉱石に頼らずお手軽に。
すぐに実践するため、みんなに協力をしてもらって素材集めを開始する。
素材集めといっても範囲はうちの屋敷の敷地内で十分だ。
まずは石。
それから火。
以上。
なんてお財布に優しいんだ。
すぐに見つかるし、量もそれほどいらないからあっという間に素材集めは終了。最後にパウリーネさんが蝋燭に火をともして持ってきてくれた。それを俺の魔力で生み出した例の空間に放り投げて、あとは俺のイメージで作りあげていく。
「これで完成だ!」
他の道具と同様、光に包まれて現れたのは一見すると前に作った冷蔵庫と変わらない。
石窯のようなデザインをしているが、こちらの用途は真逆。
冷やすのではなく温める。
こいつはオーブンのような役割を果たしてくれるはずだ。
「ダーネルさん、例のパンをこの中へ」
「わ、分かりました」
俺の指示に従い、ダーネルさんは時間経過によって硬くなってしまったパンを石窯の中へと入れていく。――と、
「うおっ!? 熱っ!?」
石窯の中の温度に驚いて、ダーネルさんは思わず飛び上がった。
「あっ! ご、ごめんなさい! 温度のことを説明し忘れていて……」
「い、いえ、なんともありませんからご心配なく。それにしても凄いですな。何もしていないのにここまで温かくなるとは」
「食べ物を温めるには便利でしょう?」
「えぇ! おかげで新しい料理のアイディアが湧いてきそうですよ!」
料理人魂に火がついた様子のダーネルさん。
これをきっかけに彼の料理のレパートリーが増えるのは喜ばしいな。
パンが温まった後、事前に作っておいた具材を挟んでサンドウィッチが完成。
これで村巡りができるな。
※次は21時に投稿予定!
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