第6章
第1話 学校ってところは意外とイベントが多いようで
「ねぇねぇねぇ、文化祭のクラスの出し物、何がいいと思う?」
とクラスの女子が問いかければ、
「オレお好み焼きの出店やりたい!」
と何故か他のクラスの朝比奈君が元気に答える。
「朝比奈は別のクラスだろー?」
と、いつの間に仲良くなったのか加賀美君も話に加わり、昼休みの教室に一つの会話の輪ができた。
みんなとキャッキャしているけれど、ほんとになんでいるのこの人、と頬杖をつきながら近くの席にいるので会話が聞こえてきてしまう。
「朝比奈また来たのか」
「オレこのクラス気に入っちゃったんだよねー」
「お前が気に入ったのはこのクラスの女子だろ」
わかるぅー?とクネクネと身体をくねらせて笑う様は、やっぱり軽い。
吹いたら飛んでいきそうな軽い男だ。
まぁ、根がいい人なのは分かっているけど。
本当なら、クラスの女子達や加賀美君とではなく、真姫ともっと仲良くなってほしい。
林間学校以来、確かに真姫と朝比奈君も打ち解けている様子はある。
私が朝比奈君と立ち話していたら大体、真姫も会話に入ってくることからも、親近感は覚えてくれているのだと認識している。
でも相変わらず、ぴっ、と関係性に線引きしている気がするのだ。
まるで、ここからここまでは良いけれど、ここから内側には踏み込んでくれるな、とでも言う様に。
そしてその基準は真姫だけではなく何故か私に対しても適用されるようで。
例えば朝比奈君が「もう、長瀬さん、なに言ってんだよぉ~」とふざけて私を肘で小突いたりすると、真姫が飛んできて私の腕を引っ張り朝比奈君を威嚇するのだ。
まるで猫が気に入らない相手に対して『シャー!!』と毛を逆立てるように。
あれ、これってなんだか私が板挟みになっていないか。
……取り合えず、そんな様子が垣間見える度に、一緒に遭難しかけた仲間なのだから、もっと距離が近くなっても良いんじゃないかなと私は思う訳で。
どうにも、せっかくのゲームイベントが空回りしている気がしてならない。
ま、真姫は遭難してないんですけどね。
むしろ自らの危険を
今更だが、このゲームの攻略対象は全部で7人いる。
攻略難易度はゲーム開始から出現する順に高くなっていくから、本当は加賀美、等々力、朝比奈は、結構狙い目のキャラなのだ。
今後でてくる攻略対象は、そもそも出現条件が厳しかったり、選択肢を間違うと一気に関わりがなくなったりと、出会うこと自体が難しくなってくる。
一体、どうするつもりなんだろうかあの子は。
……とまぁ、真姫自身は私が攻略対象とくっつけようとしていること自体知らないわけで。むしろ事情を知らないあの子にとっては、私がしようとしていることは大きなお世話として映ることもあるかもしれない。
「――ねぇ、長瀬さん、というわけで今の話どうかな?オレ、長瀬さんは絶対どっちも似合うと思うんだよね。保証する!」
「へ?ん、あ、ああ、うん?…うん」
朝比奈君に急に名前を呼ばれ、思考の海に旅立っていた意識が戻ってくる。
そして反射神経で返事を返す。
やったー、と周りの女の子達も笑顔で万歳をして喜んでいる。
私は一体、いま何を承諾したのだろうか。
そして朝比奈君はいつの間にうちのクラスに馴染んでいるのだろうか。
「俺も楽しみだなー」
加賀美君ですら少しわくわく…いや、にやにや?した様子だけれど、さっぱり分からない。
「頑張ろうな、文化祭。オレもクラス出店の休憩時間に見に来るから」
周囲の喜びようを見て、「ごめん実は話し聞いてなくてさ」だなんて言える雰囲気じゃなかった。
というかどのタイミングで私はこの子達の会話の輪に入っていたのだろうか。
全く、不思議でならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます