第3章
第1話 夏休みがやってくる
高校に入学して3ヶ月が過ぎた。
学園生活には慣れ、新しい環境で新しい友人達と新しい関係を築き、一見すると順調に事が運んでいるように思う。
一見すると、だ。
学生生活は順調だ。
でも間違えちゃいけない。
私が生きるこの世界は、乙女ゲーム『桜の誓い ―君と紡ぐ私達の物語―』のなかである。
そして私は、ヒロインである
私がこの世界に存在するのは、真姫を攻略対象と恋愛させてくっつけるため。
それが私に与えられた役目であり、存在理由なのだ。
だから間違えちゃいけない。
ただ楽しく高校生活をおくるだけでは駄目なのだ。
全ては真姫の未来のために。
でも。
「なーんか、違うんだよなぁ」
幼き頃にゲームのストーリーについて覚えている限りを全て書き出した魔女っ子アニメのノートを自室の学習机の前で広げながら、私は首を傾げていた。
現時点で遭遇している攻略対象はふたり。
爽やか長身イケメンの
このふたりとは早くも良い関係が築けているとは思う。たまに軽口を叩き合っているのも見るし、真姫にしては比較的心を許している方だと思っている。
けど、なんだか思っていたのと違うのだ。
感覚的には『戦友』のような、と言った方が早いかもしれない。
因みに私は、真姫自身のステータスや所在地のマップは見れるけれど、他者との親密度のステータスは見れない。なんとも中途半端な気がするけれど、そこは他者の心情にも関わるところだからかな?と思っている。
もう来週からは夏休みだ。
本来なら、攻略対象とデートをして親密度やステータスを上げていかないといけない。
できれば等々力君か加賀美君とデートをして、夏の間に親密度をあげておきたい。
あのふたりとは仲良くなったけれど、いつも遊びに行く話が出ると「じゃ、みんなで行こうか」と誰ともなく提案され、決まっていくのだ。
友情は深まっている。
でも個別の『恋愛感情』はどうかといわれると、首を傾げざるおえない。
真姫も、心を許しているけどどこか違う一線を引いている感がある。こういうのって、もっと女の子側に隙がないと進展しないのではないのだろうか。
見ているとこう…、既に恋人が居るかのような身持ちの堅さに見えるのだ。異性がすっと近づいてくると、まるで『あ、私、恋人いるので』というかのようにすっと身を引く。他の方には興味がありません、みたいな。
真姫って、いま好きな人は居るのだろうか。
そもそも彼女の浮いた話自体、あまり聞いたことがない。
小中学生の時も告白をされていたのは知っている。でも、真姫自身から告白を受け入れたとか、付き合っただとかの話は聞いたことがないし、思えば本人と恋バナなんてしたこともない。
真姫自身から彼女の『好きな人』の話なんて、聞いたことがないのだ。
ぴこん、とスマホの通知が鳴る。
連絡して来たのは今ちょうど私の頭の中を占めている本人で、『この動画、笑える』とシンプルなコメントに、SNSアプリの動画URLが貼られていた。
思わず、『真姫ってさ…』と返信を打ち込み、送信ボタンをタップする前に言葉を消す。
真姫ってさ、もしかして初恋もまだだったりする…?
そんなこと、本人に聞いてどうする。
思い直して、送られてきた動画のリンクをタップする。
ショート動画が軽快な背景音楽とともに流れる。動画の内容よりも、その背景で流れる音楽の懐かしさに意識がいく。偶然にもそれは何年か前に流行ったラブソングだった。
真姫も、誰かを想って切なくなったり、胸が苦しくなったりすることって、あるのだろうか。
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