第2話 応援団長のあいつの名は


 午後一番。

 はやくはやく、と真姫を引っ張り、私は人混みの最前列に陣取った。

「なんなのよ。そんなに応援団に興味あったっけ?」と私に引っ張ってこられた彼女がぶつぶつと言っているが、これもあなたのためなのよ、と心のなかで返事する。


「今年の応援団長は、私達と同じ1年生らしいからね」

 そう説明すれば、真姫も「へぇ、すご。入学してすぐに応援団長ってなれるの?」と目を丸くしている。


「基本的には立候補制だからね。でも1年生で団長に立候補すること自体、初めてらしいよ」

「やる気満々じゃない」

 流石の真姫も驚きを隠せないらしい。


 でもね、驚くのはまだ早いんだ。

 だってその団長は『彼』なのだから。


 暫く待つと、裾の長い学ランに白いハチマキと手袋をした集団が、キビキビとした動きで運動場に整列する。

 その光景だけでも緊張感があり、わくわくと心臓が高鳴る。


 私と真姫は最前列にいるから、その息遣いまで聞こえてきそうだ。


 集団のなかでもひときわ大柄な『彼』が列の中央で身構える。


 『彼』はやがて、すぅっ、と息を吸い込む音が聴こえてきそうなほどに大きな動作で胸を張り、よく通る太い声で叫び始めた。


『桜ヶ丘学園ーーーーー!新入生歓迎球技大会の開催に祝してーーーー!』


 その声を追いかけるように、背後から和太鼓の音やトランペットが勢いをつける。


 応援合戦のデモンストレーションが始まる。

 その迫力に、興奮で胸がばくばくと脈打つ。

 真姫の方をちらりとみると、この子も応援団に目を奪われているようだった。


 いま、応援団の最前列で団長を務める、黒髪短髪で体躯のがっしりしたイケメン男子――この人こそが、ふたりめの攻略対象、等々力剛とどりきごうだった。



 等々力剛は、球技大会で始めて出会い、そこからスポーツ系のイベントで親密度が上がっていく体育会系キャラだ。


 彼のルートは単純に体力勝負なので、筋力やメンタル値を上げることが必須となる。仲良くなった時のデートコースがそもそも、バッティングセンターやボウリング、サイクリングやジョギングだったりするから、鍛えていないと厳しいのだ。

 その点、真姫はほぼどのステータスもバランスよく上げているので問題はない。


 一時期、筋力とメンタル値だけが上がって脳筋になりそうな時期もあったけど。


 アウトドアも好きだから、等々力君とのデートイベントも期待できる。期待できるんだけど、あの子、「茉莉がいないと行かない」とか言い出しそうなんだよなぁ。

 今後は夏休みも見越してグループで遊びに行く、というのも視野にいれておいた方がいいかもしれない。


 取り敢えず、新入生歓迎球技大会は等々力剛とのファーストコンタクトとなるのだ。

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