第4話 一緒に帰ってみませんか?


「ふふー、真姫ぃ~」

「なに、凄いにこにこして」


 ホームルームも終わった入学初日の放課後。

 私は早速真姫に加賀美君の事を聞いてみた。


「加賀美君、同じクラスじゃん!これって凄い偶然だね!」

 否、偶然ではなく必然なんだけども。

 でも私の言葉に当の本人は「?」と頭にはてなマークを浮かべて首を傾げている。


「え、まさか、覚えてないの?加賀美君」

「加賀美…?」


「よう、一ノ瀬」

 そこで、タイミングよく加賀美君がやって来た。

 そこでようやく真姫が思い出したように「ああ、しん君か」と合点がいったように呟いた。


「そうそう、保育園のお友達の!」

「どんぐりが好きだった子ね。久しぶり」

「お、おう…あの時はまだ子どもだったからな。というかやっぱり一ノ瀬なんだな。えっと…」


 ちらり、と加賀美君が私の方を見たので、改めてもう一度自己紹介をしておく。

 真姫のサポート役として、印象を悪くするわけにはいかないからね。


「長瀬茉莉です。真姫とは幼馴染。宜しくね!」

「長瀬さんか、宜しくな」


 加賀美君が右手を差し出して来る。

 欧米スタイルの挨拶か、ちょっと照れちゃうな。

 戸惑いながらもその手を取る。

 握った手は思っていたよりも硬くて、筋ばっていた。

 男の人の手、って感じで緊張する。


 ん?何故か真姫が険しい顔で私と加賀美君が交わした手を見てくる。

 もしかして、ヤキモチ?いい兆候ですね。


「それにしても、高校になって会えるなんてほんと凄い偶然だよね。運命かもね。加賀美君と真姫」

「そ、そうかな…」と顔を赤らめる加賀美君と、「は?」と何故か不機嫌MAXの真姫。


 私、何かしましたか。


 とはいえ、こちらも本日がゲーム開始してからの初仕事なのだ。

 えーと、ゲーム内だと確かこのあと…。


「そうそう、加賀美君、私と真姫、これから帰るんだけど、もし方向同じなら一緒に帰らない?」

「お、いいぜ。俺も話したかったし」

「ちょ、ちょっと茉莉、勝手に……」


 戸惑う様子の真姫を宥め、なんとか3人で帰宅する流れに持っていく。

 案の定、加賀美君のお家は私と真姫と同じ方角で、しかも真姫のお家のすぐ近くだった。


 本来ならば入学初日は、加賀美君と真姫がふたりきりで帰る。


 本当はその帰り道での会話で、「呼び方どうしよっか」だなんて流れになり、選択肢が現れて、そこでも親密度をアップさせるイベントがあるんだけど。

 いまの真姫の様子だと、そもそもかつての再会を懐かしんで一緒に帰る、というイベント自体発生しなさそうなので私が促すことにしたのだ。


 私、お助けキャラだし。


 だから今回も、3人で帰ると見せかけて私は途中で適当に用事を思い出したふりして離れようと思う。

 真姫と加賀美君にはふたりきりで帰って親睦を深めてもらおう――そう考えると、何故かチクリ、と胸の奥に針が刺さった様なちいさな痛みが走った。


 ……気のせいか。


「茉莉、行くわよ。なにもたもたしてんの」

 教室の入り口から、ちょっと不機嫌そうな真姫に呼ばれる。

 ちょっと言葉にトゲがないですか。

「はやく来いよ。長瀬」

 優しく笑う加賀美君が、真姫の隣で手招きしてくれる。

 何故かそれで真姫がぴくりと反応し、眉間に皺が寄った。

「ああ、ごめんごめん。いまいくー」

 想定外にぎこちない雰囲気に戸惑いながらも、ふたりが並ぶところに、私は走る。


 わくわくしている。

 わくわくはしているのに、少しだけ、足が重いような気がした。

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