第170話

城まで戻ってきたシュバルツは長兄であるアルツェンに修練場に呼び出されていた。

「兄様。どうしたんですか?」

「シュバルツ。悪いが模擬戦に付き合ってくれ」

「わかりました・・・」

シュバルツとアルツェンは互いに木剣を構える。

シュタイナーの後継者としてしっかり訓練をしているのだろう。

アルツェンの構えは隙の無い見事な物だった。

「こうして向かい合うとシュバルツは凄いな。よくぞ、この短い期間でそこまで上り詰めたものだね」

「ありがとうございます。でも、兄様も凄いですよ」

「そうか・・・。では、少しは兄らしい所を見せないとな」

アルツェンはそう言うと鋭い突きを放ってくる。

シュバルツは半歩動きそれを避けてみせる。

突きの硬直を狙って攻撃しようとするが咄嗟の判断で1歩後ろに下がる。

「ふむ。いい判断だな」

今、攻撃していれば1本取られていただろう。

シュタイナーもそうだがアルツェンも化け物のように強い。

シュバルツは胸を借りるつもりで自分から仕掛ける。

上段からの木剣を振り下ろす。

アルツェンはそれを余裕で木剣で受け止める。

「いい威力だな。だが・・・」

アルツェンはあっさりとシュバルツの木剣をはじき姿勢を崩すと追撃を仕掛けてくる。

ギリギリのところでシュバルツは木剣を潜り込ませ防御する。

そこからはお互いに無言で木剣を振るい続けた。

激しく攻守が入れ替わり白熱した勝負となった。

「はぁはぁ・・・。降参です」

結局、白旗を上げたのはシュバルツの方だった。

「ふぅ・・・。まさか、ここまで粘られるとは思わなかったよ」

「ありがとうございました」

「その歳でここまでできれば十分だろう。これは少し考えないといけないな」

「考えるって何をです?」

「私に何かあった時の後継者さ」

「他にも兄妹がいるのにですか?」

「クロイツェン公爵家に求められる物が何かわかるかい?」

「圧倒的な強さですか?」

「その通り。戦場に絶対はない。父上も私も倒れるかもしれない。だが、後継者がしっかりと決まっていれば兵の混乱は最低限に抑えられる。受けてくれるかい?」

「少し考えさせてください」

「わかった。とはいえ、上げられる時間は私達が滞在している間だけだ」

「わかりました・・・」

「よい答えを期待しているよ」

アルツェンはそう言って修練場を後にした。

シュバルツはその場で横になる。

化け物のような強さをしている2人が死ぬとは考えにくい。

だが、それでも絶対はないのだ。

先日のような悪魔の例もある。

シュバルツに出来るのは少しでも強くなることだけだった。

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