第100話

冒険者組合にていつものように換金したのだが、そこに城の使用人が駆け込んできた。


「シュバルツ様。城にお戻りください」


走ってきたのだろう使用人は肩で息をしている。


「そんなに慌てて何かあったのですか?」


「奥様の陣痛がはじまりました」


「急いで戻りましょう」


シュバルツの決断は早かった。


城への道を急いで走る。


城に入りそのまま母親であるマリアンヌの部屋に向かう。


部屋の前では祖父であるオグワールが落ち着かないようにうろうろ歩いていた。


「お爺様。状況は?」


「おぉ。間に合ったか。まだ、生まれておらぬ」


「そうですか・・・」


シュバルツにとっては前世を通してはじめての弟か妹の誕生だ。


オグワールと同じように落ち着かず部屋の前をいったりきたりする。


それを見ていたフランは呆れていた。


しばらく待っていると部屋の中からおぎゃーおぎゃーと声がする。


「お爺様」


「うむ。生まれたようじゃの」


室内から産婆が出てくる。


「無事にお生まれになりました。元気な女の子です」


シュバルツとオグワールは許可を得て室内に入る。


「これが妹・・・」


シュバルツは恐る恐る手を出すと妹が指を握ってくる。


その可愛さに骨抜きにされてしまった。


「ふふ。シュバルツもこれでお兄ちゃんですね」


「はい。恥ずかしくないようにしないと」


それを聞いていたオグワールは思わず言ってしまった。


「いや。今のままで十分だと思うぞ」


「そうですか?」


「今の時点で長男であればお主を後継者に推薦したい。それぐらいの実績を重ねておる」


「お爺様。冗談でもそれはいわないでください。お家騒動なんてごめんですからね」


「わかっておる」


「この子の名前はどうするのですか?」


「それなら、もう決まってるわ。女の子だからリリアーヌね」


「本当ならシュタイナーの奴も来たかったのだろうが・・・」


「タイミングが悪かったですね」


「本当にな」


今、この子の父親であるシュタイナーは戦争の真っ最中だ。


あれから何度か頼まれて支援物資を異空間から持ち出している。


シュバルツの支援の効果もあり戦争はこちら側有利で進んでいると手紙にはあった。


シュタイナーは長期戦は望んでおらず積極的に攻勢に出ているようだ。


シュバルツも強くなったつもりでいたがシュタイナーはそれ以上の化け物だ。


あれだけの化け物を倒せる者もそうそういないだろう。


シュバルツは無事に帰ってくるようにと神々に祈った。

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