第53話 リベンジマッチ
電気が復元され、明かりが戻った竜宮城。
俺が居るのは最初に大きなカニの巨大ロボと戦った場所。
大きく頑丈な広場には俺が壊したたくさんの機械の残骸が無残に散らばっている。
そこにペタペタと肌の吸い付く足音をたてながら、白い布を無造作に巻いた少女が姿を現す。
「やっと来たか」
「随分と派手にやってくれたね?」
周りの悲惨な状況を見て、ため息を衝き肩を落とすノア。
ノアが来る間攻撃してきたロボットを片っ端から破壊した。十~二十は壊しただろうか。
この機材費は相当な被害額になるだろうな。
ロボの相手で身体は十分に温まっている。
「今度こそお前をぶっ潰す!」
右の手をバキバキと鳴らし、戦闘態勢を取る。
リベンジマッチに熱が入る俺とは対照的に、ノアは冷静だ。
「忘れたの? さっきノアにボコボコにされたよね?」
ノアは不思議そうに首を傾げる。
まるで何度やっても同じだと言わんばかりの態度に腹が立つ。
「少し舐めてたからな」
「それにその傷じゃ……」
俺はシャツを
「傷? そんなもんないが?」
何事もなかったかのように振る舞い
朔桜の宝具『
完全に
「君……相当な負けず嫌いみたいだね?」
ノアは呆れ気味に俺を見た。
「どうだかなっ!」
俺が電撃を放つと同時にノアは布をバネのように使い、電撃をかわし
瞬時に俺の目前まで迫る。そして、華奢な足を勢いよく俺の顔面目掛け振り下ろしてきた。
だが、その攻撃は届かず、空中で止まっている。
体を捩り体制を立て直し、蹴りや拳を連打するが
どれも空気の壁に阻まれて到底届かない。
「どうした? ご自慢の
「…………」
「さっき戦った時より弱くなってるぞ!」
風壁でノアを奥に弾き返す。
「くっ……宝具さえ使えれば、お前なんて……」
小さく呟いたノアの小言を俺は聞き逃さなかった。
「やっぱり。今のお前は自由に宝具が使えないんだな?」
バツが悪そうに目を伏せるノア。
「当ててやる。お前の宝具のエネルギー源は……電気だな」
その言葉を聞きノアは身体をビクッと震わせ一瞬目を丸く見開く。
そしてこちらを食い入る様子で見た。
「な……何を――――」
「停電中お前は一切俺の前に姿を現さなかったな。
あんなに竜宮城内を荒らしまくったにもかかわらずだ。
それは何故か。答えは簡単。全うに戦えばエネルギーが尽きて俺に破壊されるからだ」
ノアは何も言葉を出さずに
「お前が人工的でも宝具である以上、莫大なエネルギーを使うはずだ。
それを何かしらの自然エネルギー又は人工エネルギーで補っているんだろうとは思っていた。
最初は水力エネルギーを吸収しているのかと思ってたが、停電中は襲って来なかった。
ここ、竜宮城と言ったか? それが海底にあるのは海底の地下マグマの熱か何かで発電し
電気を作っているんだろう?」
俺の推測を聞き終えるとノアはゆっくりと向き直る。
「……まさか短時間でそこまで……凄いよ、君?」
「つってことは発電所は地下で確定みたいだな。……後は頼んだぞ」
そう言い残し、ポケットで通信していた『
俺の憶測は全て当たっていたみたいだ。
まあ、一部は朔桜のおかげでもあるが。
今後の作戦は事前に伝えてある。ここからが踏ん張りどころだ。
弱体化しているとはいえ一度は負かされた人工宝具。油断はできない。
それに奴のエネルギーが電気と確定した今、雷の術は使えない。吸収されてしまっては事だ。
地下に向かった朔桜が発電所を壊すまで、慎重に時間を稼ぐ必要がある。
相手の雰囲気もガラッと変わった。なにか覚悟を決めた様だ。
「宝具無しでもノアは強いよ? ノアにはDrが作ってくれたこの『雨の羽衣』があるからさ?」
身に纏った布……もとい、雨の羽衣をヒラヒラと宙に漂わせ
回したり丸めたり機敏に動かしている。
それを急激に
激しい高音が部屋に響く。当たればそれなりに痛そうだ。
「いくよ?」
今のが奴なりの準備だったのだろう。
か細い足で身軽に地面を蹴って、こちらに勢いよく迫る。
衣を二つ地面に付き前転倒立回転し、そのまま
空中で衣二枚を重ね合わせ、長太刀の如く振り下ろす。
「
「風壁―球!」
風壁を球状に張り、四方八方からの攻撃を守る術だ。
弐枚太刀の攻撃を軽々と受けきった。
「目先だけでなく全体を守る……さすがだねっ?」
衣は二つに分かれ両脇から挟み込むように動きを変えた。
「
強力な力で挟み込まれるが、風壁はまるで傷付いていない。
ノアは風壁を破れないと見るや、衣を引いて体制を立て直す。
「お前、本気出してないな? なんのつもりだ?」
「それはあなたも一緒でしょ?」
「本気を出してこないならそのまま殺す」
全身から風を放ち、圧をかける。
しかし、ノアは平常心のまま。冷静さを崩さない。
「別にこっちのノアは吸電時間を稼げれば死んでもいいし?」
「こっちの?」
その言葉を呑み込むように復唱すると重大なミスに気付く。
「そうか、お前も俺と同じで
「気付いた? あなたの連れの女の子を使って
発電所を破壊しようとしてるんだろうけど、それは不可能だよ?
あそこにはノアが常に居て吸電しているからさ?
万が一、億が一にもあの子に勝ち目は無いよ?」
確かに朔桜だけならばノアを退けるのは難しいだろう。
だが、こっちは嫌な思いをしつつ、嫌な事をしてきた。
奴には役に立ってもらわなければ困る。
それを悟られる訳にはいかない。
「随分と無駄口を叩くのに電力を使っているようにみえる。
節電した方が懸命だぞ? ガラクタアンドロイド」
俺の挑発を聞くと顔をムッとさせる。
ガラクタアンドロイドという言葉が癇に障ったのかピクリと反応した。
「……怒ったよ?」
突如、猛攻を繰り出してくる。だが、想定内。これでいい。
見た目と同様に精神はまだ幼い。簡単な挑発にも乗ってくれるようだ。
ノアが二人に分身している間は、宝具を持続的に使い続けている状態ということ。
俺と戦っていれば、エネルギーを吸収するよりも、消費するエネルギーの方が多いはず。
俺がノアを引き付けいる間に、どうにか頑張ってくれと願うばかりだ。
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