第26話 黒水晶の獅子
一方、その頃。
奈落に落ちた朔桜とティナは魔界の門の前にいた。
突然の襲撃に遭い、落ちた先は大空洞。
巨大な地下迷宮になっていて、迷わず辿り着くのは困難な場所なのだが
ティナは大空洞のルートを覚えており、朔桜の持っていた懐中電灯で足場を照らしながら
正確に門の前まで辿り着いた。
二人は平坦な手ごろな石に腰掛け門の脇にあったランタンの火で
四月の日の落ちた洞窟の中は
「ロード……来ないね」
両手を火に近づけスリスリと擦り合わせる。
「いっその事もう二人で帰ろっか!」
にっこりと嬉しそうに笑うティナの表情は冗談ではなく本気だ。
「もう……そんな事言わないの。そういえば、落ちた時の怪我、大丈夫?」
先の爆発で落下した時、地面に激突寸前でティナは魔装『
朔桜は傷一つ無かったが、ティナは身体全身を打ち付け、怪我をしてしまったのだ。
「ええ、もう大丈夫よ。その宝具ですぐに治してくれたでしょ?」
「そうだけど、痛みとかはあるのかなって」
「落ちた時は全身がかなり痛かったけど、肉体的には治っているから問題ないわ」
「ほんとにありがとね。今度、御礼しなくちゃ!」
「別にいいわよ、そんなの」
「ダメ! する!」
そしていい事を思いつき手をポンと叩く。
「あ! じゃあさ、帰ったら駅前のケーキ奢るよ!」
「駅前のってあの有名なやつ!?」
甘いものが大好きなティナは目の色を変え食いつく。
駅前に新しく出来た洋菓子店“セブンスイーツ”。
価格はすべて700円以下というコンセプトのお店。
品種も多く、美味しい、写真に映えるなどの理由から若い女性中心に人気を獲得。
全国に店舗を広げているらしい。
もちろんティナも存在は知っていた。
だが、ロードが人間界に現れてからというもの
魔物の運搬や定期連絡、ゴデやセルヴィスに地下洞窟の道や周辺の地形を教授していて
それどころではなかった。
「そうだよ! 前回みんなで行った時、明行けてなかったもんね!
だがら私が奢る! 何個でもいいよ!」
「本当に!?」
「大丈夫! ロードの生活費としてたくさんお金もらったから!」
自慢げに親指を立てる。
「生活費?」
「あっ」
余計な事を言ってしまったと口を
「それってどういう……」
「ほ、宝具を使って回復させた給料みたいなものだってっ!
ロードが自由に使っていいって言ってたもん!」
「そ、そう? じゃあそのついでに海沿いのカフェにも行きましょう!
パフェが最高に美味しいって評判のお店があるの! そっちは私は奢るから」
「ほんと!? 行く!!!」
「スーパービッグパフェ頼もう!」
「頼むぅ!!!」
歳相応の女の子らしい談笑をしていると
朔桜たちが来た道ではない通路からなにかが静かに迫って来る。
気配を殺して迫っていたが、ティナはいち早く気づき、朔桜を素早く抱えて距離を取る。
そして通路から現れたのは片目が砕けた黒い水晶のライオン。
「クオルドネル……」
ティナは知っている。
圧倒的な破壊力と迅速な素早さ、そして気後れする防御力を兼ね備えた
ステン一番のお気に入りの魔獣。
クオルドネルはグゥと唸りながら周囲を見回し、殺す相手に狙いを定める。
「朔桜、あいつやばいから絶対に私の後ろから離れないで」
「うん……分かった」
こうして二つの戦いが始まった。
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