第25話 分断
長い洞窟の移動中、朔桜の宝具【
先ほどの戦いで傷ついたロードと消費した魔力ティナの身体を回復させる。
ティナの魔装『
損傷した部分が修復されてゆく。
本体の核部分が壊れない限り、放置していても空気中のエナを自然に吸って自動修復するらしい。
だが、人間界での自然回復だと、かなり時間がかかるらしい。
これからステンにとって重要かつ、
なにかしらの邪魔をしてくることだろう。
そうなれば戦力は、万全のほうがいいという理由でロードは宝具の使用を許可した。
ついでにティナからステンの持つ魔装や宝具の事を色々と聞き出す事ができた。
ティナ知っている限りでは
四次元に繋がった帽子の魔装。『
相手の魔力を測る、眼鏡に宿った宝具。【
自分のエナを完全に隠す、手袋に宿る宝具。【
結界の中の事象を無効化する杖に宿った宝具。【
四つの宝具を所持しているらしい。
ロードもステンと対峙した時、味方とバラけた時などの時間の稼ぎ方や対策などを話しながら
地下通路をひたすら進んでいるとティナがふと口を開いた。
「そういえば、あなたどうやって人間界へ来たの?」
ロードに視線を向け素朴な疑問をぶつける。
「宝具
「なにそれ? 聞いた事無いわよ、そんな宝具」
「まあ庶民じゃ知らないのも無理は無い。国宝級の代物だからな」
「国宝級? そんな宝具をよく低位のあなたが持ってたわね」
「
ティナは驚いたような、呆れたような顔をする。
「はあ? 自国から国宝級の宝具を盗んだの?」
「ああ」
「さすがは
その言葉はロードの
「何故そんな事をしたの?」
「家出したんだって」
朔桜が代わりに答える。
「家出? しょーもな……」
「黙れ。こっちにも色々と事情があるんだ」
「ふ~ん、ま、そんなのはどうでもいいや。で、なんで朔桜に力を貸してるの?
あなた助けてもらって恩を返すような、善良な魔人だったかしら?」
ティナは挑発的な口調でロードを煽るがロードは無言を貫く。
「もしかして朔桜の事好きに――」
「それはない」
ばっさりと断言する。
「即答!? 酷いっ! なんでぇ!?」
「我が強いところとか頑固なところが俺のクソな兄に似てるからだよ」
ティナは疑いを持ったジト目でこちらを見ているが無視するのが無難だろう。
「あれ? ロードって兄弟いたんだ?」
「ああ、クソな兄と、面倒くさい姉がいる」
「お姉さんもいるんだ。私兄弟いないから羨ましいなぁ~」
「兄姉なんて
ロードは頭の中で兄姉を浮かべてしまい
脳内は不快感に満たされたらしく顔を
「兄姉がお望みなら私が朔桜のお姉ちゃんになるわよ!」
ぐいっと身を乗り出すティナ。
「
ティナの顔や体をじろじろと見ながら、いたずらっぽい笑顔を向ける。
「何言ってるの? しっかりした私が姉で、甘えん坊な朔桜ちゃんは妹って感じだけれど?」
女子二人でわちゃわちゃと戯れている。
その会話を聞くだけで、二人はよく信頼し合っていて、すごく仲が良い事は
しかし、いつステンが現れるやも知れないのに、まったく呑気な会話をしていた。
するとタイミングを見計らった様に、通路全体に声が響く。
「私のテリトリーでわいわいと……まるで子供たちの遠足ですね」
皆の空気が一変。
この腹の立つすかした声の主は、間違いなくステン・マイスローズである。
「ステン……やっぱりこっちに来ていたのね」
「口の利き方がなってませんよ、ティナ」
ステンは冷たく威圧した口調で話すも、ティナはそれに怯まない。
「ふん、お前の顔色を窺うのはもう終わりよ。
来なさい、ステン・マイスローズ。
私の積もりに積もった恨み、全てぶつけてあげるわ」
「恨み……ですか……。あなたが長年私を憎んでいたのは知っていましたよ。
利用価値があったから野放しにしていましたが……もう用済みだ。
そいつらと共に始末してあげましょう。散れ、グランバール!!」
ステンの唱えた魔術により、突如、三人の足場が一気に砕け、吹き飛んだ。
「なっ!」
足元は何も見えない真っ暗な奈落。
瞬時に飛翔で浮き上がり、二人を浮かび上がらせようとした時
横の壁を破壊し現れた巨大な岩の手に掴まれた。
「なんだっくそ!」
体から電撃を放ち、掴んでいる手を破壊しようとするも、びくともしてない。
「ロードっ!!」
飛ぶすべのない朔桜は重力に従い深い奈落に落ちていく。
落ちた先に何があるか分からない以上、なんとしても引き上げなければならない。
しかし、ロードがどんなにあがいても岩の手から抜け出す事が出来なかった。
「なんだこのありえない力! 万力で潰されているみたいだ!」
これは流石に本気を出さなければマズいと
ロードは左目を閉じ、その上に隠すように手を当てる。
だが、それと同時に足元からティナの声が響いた。
「朔桜ぁぁぁぁぁぁ!」
八つ脚の捕食者で砕けた足場の破片を、素早く弾くように渡っていく。
どんどんと加速し、ティナは朔桜を両手で抱き抱えた。
「ロード・フォン・ディオス!! 朔桜は私の命に代えても絶対に守る!!
だからお前はその化け物を倒してさっさと来い!」
登って来れるような足場になる瓦礫はもう残っておらず
言葉だけを残してティナと朔桜は奈落に落ちていった。
二人が落ちたのを見届けたかのように巨大な手はロードを掴んだまま
岩壁などまるで存在しないかのように破壊しながらがむしゃらに突き進む。
「くそっ! なんなんだ、こいつ!!!」
そして着いたのはティナが居た広間より数倍広い場所。
床は土、壁は岩でできた長方形状の部屋。
天井は高く、部屋全体が明るく保たれている。
こっちはサッカーの試合ができそうな広さだ。
そして巨大な手の本体が正体をやっと拝む事ができた。
「こいつは大層なデカブツ引っ張り出したな……」
人間の五倍はある大きな茶色の岩塊。
そして鋭い爪を持った四つの巨大な手。
雷撃を受けてもビクともしない耐魔性。
目元の岩と岩の隙間に大きな赤い球体が素早く動く。
「“
その魔物の名を出した男はこちらへ歩いてくる。
黒いシルクハットに洒落た黒ぶち眼鏡。
白い手袋着け杖を持ったまるでマジシャンみたいな風貌の男。
“十二貴族”の魔人ステン・マイスローズだ。
「魔物の中でも特に攻撃と防御に優れた地の上級魔物ですよ。
従えるのに些か苦労しましたが、雷は不利属性。君にとっては最高の天敵でしょう」
「二体一とか卑怯じゃないか?」
「卑怯? これは君に対する最大の敬意さ。
まさか君が“トロステア”のメンバーと私の魔獣を退け、ここまで来るとは思わなかった。
さすがは王族だ。そこは評価しよう。
しかし、私の駒を全て奪い、ティナまでも味方に付けるのは少しやり過ぎだ。
よって……ここで処刑する!」
ステンは指を鳴らし、合図すると、アルシャヴィキーラはその手の力をさらに強めた。
「うっ……くっそがぁ…」
「無事象!」
ロードの周りに蒼色の結界が張られる。
結界内では魔術、魔装、宝具などのあらゆる力は無効化される。
周到な戦略だ。
「くっ……このままじゃ……」
「さようなら! ロード・フォン・ディオス!」
シルクハットから剣を取り出し、ロードの首元を狙い突きたてる。
その行動にロードは笑みを零す。
「俺は……ツイてるみたいだな」
突如、剣の動きが止まった。
そしてステンの力に逆らうように動き出す。
「くっ……なんだ!?」
剣は手元から飛んでゆき、アルシャヴィキーラの目の隙間に一直線で突き刺さった。
「ウォォォォォォォォォォォォォォォン!」
目玉に剣が刺さったアルシャヴィキーラは
ロードを掴んでいた手を離し、大暴れ。
「無事象を過信しすぎだ」
ステンが移動してきた空気の流れを利用し、持っていた剣を操作したのだ。
無事象の結界を数回殴って叩き割り
ロードは雷の如くステンとの距離を一瞬で詰め寄る。
「なっ……」
「
右の拳に雷を
「おっっらぁぁぁぁ!!!!!!!」
顔に拳がめり込んだステンの体は、時から外れたように一瞬止まり
顔で受けた雷を体中から雷を放電しながら、一番遠くの壁まで一直線で吹き飛んだ。
その姿は、まるで流れ星のようだ。
壁にぶつかった衝撃で一帯は大破。
ステンは大量の
「あーすっきりしたぁ!」
連戦で溜まりに溜まっていたストレスを、ステンに全てぶつけ、すごく清々しい顔をしている。
「そろそろうるせえ!」
後ろでガシャガシャと暴れ狂っているアルシャヴィキーラを風衝で吹き飛ばし、壁に叩きつける。
「おい、立てよステン。まだ終わりじゃないだろ?」
その声に応えるように爆発で瓦礫を吹き飛ばし、よろよろと立ち上がる。
頭と口から大量に血を流して冷静を気取る余裕も無い様子だ。
「貴様は……絶対に殺す!!」
鋭い視線で睨みつけるステンの目には、激しい憎悪の炎が燃えていた。
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