第23話 巡る出会い(過去編)
――――そして時は流れ約一年後。
私はステンの命令で人間界にある宝具を追っていた。
だが、その途中でエナの無い体でありながら理解不可能な攻撃を
無尽蔵に繰り出してくる人間に遭遇した。
そいつは尋常じゃないほど強く、ギバエフが手も足も出せず瞬殺され
私も全く太刀打ちできず、命からがら逃げ延びるのが精一杯だった。
逃げるのに魔力をほとんど使い果たしてしまい、私は暗く狭い路地で行き倒れていた。
空中のエナが少ない人間界ではまともな回復魔術を使うのに時間がかかる。
薄っすらと死を覚悟したそんな時だった。
「あの~大丈夫?」
恐怖と心配が混ざり合うような少女の声色。
その言葉に返事はしない。
一言も喋らず黙り込み、建物の暗がりにもたれていると彼女は半ば強引に私を背負おうとする。
「なにをするの! やめなさい!」
「だってあなた苦しそうなんだもん……。すぐ近くの病院で診てもらったほうがいいよ」
病院は魔人とバレる恐れがある。絶対に行く訳にはいかない。
「断るわ。私に……構わないで」
「あっ! お金は私が払うから、気にしないで!」
「そういうことじゃないのよ」
無理やり連れて行こうと背負われた。
「うっ……あなた思った以上に重いかも……」
「っ! 失礼な……っ!! 私の背負っている物が重いだけよ!!」
魔装『八つ足の捕食者』は意外と重いのだ。本当だ。
私が彼女の背中で暴れると、彼女の揺れたペンダントが腕に触れた。
すると淡い光が私を包み、傷がみるみる消えていく。
驚く事に、私の魔力はあっという間に満たされた。
「なに……この力……もしかして宝具!?」
背中から飛び降り少女に敵意を向ける。
「なに今の光! びっくりした~。あれ? 元気になったの?」
彼女はあっけらかんとしているが、今のは間違いなく宝具だ。
一瞬でエナと傷を回復させる宝具だろうか。本人には回復させた意識はなさそうだ。
これがあればステンと戦う時、優位になる。
思わぬ掘り出し物だ。まさかこんな力の無い人間が持っているなんて。
こういう時なんと言うか私は知っているぞ。たしか、猫に小判というやつだ!
「あなた……それは何?」
ペンダントを指差す。
装飾品の名称や由縁を聞いたのではない。
私は単に能力を聞いたつもりだった。
「これ? これは……お母さんがくれたの」
その言葉を聞き、思考が止まる。
「まさか……。母の……形見とかじゃないわよね……?」
自然と声が震える。
ダメ、動揺が伝わってしまう。
「まだ形見ではないよ、たぶん! まだどこかで生きてるかも知れないし」
「あなたの母はまだ生きているの?」
「分からない。でも、これが唯一お母さんが残した物なの。これがあればまた会える気がするの。
変だよね、物に執着するなんて」
自分の耳と背中を強く意識する。
そこには二人の形見であるイヤリングと八つ脚の捕食者があった。
母の残した物の大切をよく知っている。
「変なんかじゃないわ。それは形ある思い出よ」
「ありがとう……」
曇りの無い真直ぐな目で、曇った私の顔を覗き込んでくる。
「あなた……それ大切?」
「もちろん! とても大切」
「そう……」
私は笑顔の彼女から大切なモノを取り上げる事は出来なかった。
「どうしたの?」
「いえ、なんでもないわ。助けてくれてありがとう」
「そう? まあ、元気になってよかった!」
満開の花の様な眩しい笑顔を向けられ、こそばゆい気持ちになる。
「そうだ! この辺りで猫を見なかった? こーんぐらいの大きさのちょっと目つきの悪いやつ」
手で大きさを表現し、指を目じりに当て目を吊り上げる。
「あれかしら?」
ちょうど通路を堂々と歩いていた猫を指差す。
「あ! いたぁ!!」
彼女の大声に驚き、バレたかと言わんばかりに早々に走り去る目つきの悪い猫。
少女は走って追いかけて行き、路地の角を曲がると姿が見えなくなる。
「何やってんだ私……。みすみすあんな一級の宝具を見過ごすなんて……」
バカな事をしたと悔やんでいると彼女は宝具をぶら下げてすぐに戻ってきた。
「そうだ! あなたーー名前はーー?」
名前を聞きにわざわざ戻ってきたらしい。
数年前適当に付けた苗字と合わせ名を名乗る。
「
「あれ? その名前昔どこかで……。あ、私は並木 朔桜。また、会えるといいね!」
彼女は手を振りながら元気に猫を追いかけて行ったのだった。
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