ナガセミナトの未完図書

花園眠莉

花火大会

初めまして、司書のナガセミナトです。今回は少し季節外れの花火大会が題材となっているお話です。



 8月に入り花火シーズンに突入した頃、どこもかしこも浮かれて恋色になっていた。学校祭の後に付き合い始めた人も多く、恋人保有率は高い。そんな中、私は変わることなくバイトに励んでいた。友人からの誘いがあれば基本応じて、夏休みの課題はギリギリまでやらない。高校生らしいといえば聞こえは良い怠惰な生活を送っていた。


 あまりにも面白みの無い女子高校生に花火の誘いが来た。相手はクラスの男子。男子特有のわちゃわちゃとした中の中心にいて女子とも仲が良い相原晴河(あいはらはるか)君。私とは選択科目の席が隣という接点以外無い。それなのに今日の花火を一緒に見ないかと誘われた。当日に誘うのはどうなのかとは思ったけれどそれよりも嬉しかった。これは脈アリなのではと自意識過剰な思考回路に落ちるけれど彼はその時のノリで誘う人だから特に意味など無いのだろう。今日のバイトは珍しく19時半までに入ってた。19時半までだと花火は始まってる。せっかく誘ってくれたのに花火は行けない。嫌だな、行きたかったな。


 「ごめん。バイトが19時半まで入ってる。」なんて送りたくもない文を送った。本当は行きたいのに。

「マジ!?バイト頑張ってね。別の花火大会は一緒に行きたい!」と向こうは優しさに溢れた言葉を返してくれた。私は小さく溜息を吐いて休憩用の机に伏せる。なんでこんな時にこんな時間までバイトが入っているのか。ケータイが震え休憩時間の終わりを知る。


「お疲れ様です。」バイトが終わって家に向かう。外に出て地下鉄特有の涼しい入口をくぐり抜ける。休日なのに人は少なく自分の靴の音がよく響く。それが何か嫌で気分が沈んでしまう。多分、花火を見ている人が多いんだろうな。地下鉄のホームに向かう時の湿っぽい匂いが私の髪を撫でる。今はそれさえ虚しく感じる。やけにうるさく地下鉄が私の前に止まる。あまり席の空いていない地下鉄に乗り込むと疲れが押し寄せてきた。この伽藍堂な心の理由はよく分かっている。全部この花火大会のせいだ。何かのせいにしないと泣いてしまいそうな精神状態だった。目的の駅に着くと人に流されるように階段を上がった。外に出ると真夏より幾分涼しい風が頬を撫でる。それは寂しく感じたけれど気付かないふりをしてバス停まで走る。


 発車ギリギリのバスに乗りこんだ。比較的真ん中の方の席に座る。疲れとどこに吐けば良いか分からない感情を吐き出すように溜息をついた。ほとんど人は乗っていなかったから多分聞こえていないだろう。暇を潰そうと意味もなく携帯の画面をスクロールしてみるけれど気になるものは特に無くてすぐに画面を消した。ただバスに揺られていた。


 ふと、窓を見ると一際大きな花火が打ち上がっている。立て続けに何発も、何発も。


あ、フィナーレか。


相川君は誰と見てるかな。男子と見ているのかな。それとも、仲良い女子と見てるのかな。それだったら、嫌だな。そんなこと思える資格なんて無いのに。ただのクラスメイトって肩書なのに。


 自分の最寄りのバス停で降りると遠くの方から花火の音がした。少しの間立ち止まって振り返った。しだれ花火が小さく咲いていた。虚しさを繋ぐ帰路の中、足音を鳴らす。相川君と行きたかったな。この悲しい気持ちは拭えない。



 この後はどんな展開を迎えるのでしょうか。きっと読む人によって違うんでしょうね。次回はどんな恋愛に出会えるのでしょうか。またお会い出来る日を楽しみにしています。

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