第25話 そろそろ新栗の時期です。

生徒会副会長である私、赤城 春は頭を悩ませている、どうしてこうなった。



文化祭の振替休日が明け、すでに2日が経った。

本来なら学院は通常授業に戻り、またぞろ平穏な日々が戻ってくるはずだったのだが……。

文化祭で調子に乗って、バリスタだのリベロだの王子様だのと派手にやらかしてくれたもんだから、今までその存在を知られていなかった青桐先生が、すっかり有名人になっていた、今や時の人と言える。

大体あれだけ派手に動き回れば目立つのは当たり前だ、むしろ10年以上この学院に勤めていながら、あの低い知名度はなんだったのか? 幻の珍獣か、ツチノコなのか、まぁ私から見れば、学院の美女を喰いものにするバンパイアの方が近いな。プププ、おっさんバンパイアだ。


今もこの美術準備室の外では、その先生目当ての数名の女生徒達が用も無いのにウロチョロと歩き回っている。

さすがに、この部屋を訪れる理由までは見つからないのか、外でウロウロするに留まってはいるが。


「で、赤城副会長。部屋から出づらくなったのですが、いい案有りませんか?」


「いい歳こいて引きこもりじゃないんですから、堂々と出ていけばいいじゃないですか」


大体なんで私が、青桐先生のつまらない相談に乗らなくちゃいけないのだ、私の貴重な昼休みを返せ。

黒崎会長の都合が付かず、しかたなく私が文化祭の経過報告書を届けに来たらそのまま捕まってしまった。

決して、目の前のモンブランとカフェオレに釣られたわけではない! ないったらない!

くそー、和栗のモンブランうめぇーーっ。超クリーミー。


「なかなかいい出来でしょ、小布施の新栗を使って作ったんですよ」


「くっ、悔しいけど、凄く美味しいです」


「なんで、悔しいんですか? まぁ、寂しい中年の話しに、少しは付き合ってくださいよ、カフェオレお代わり煎れますね」


「頂きます。でも先生、中年って歳でも無いでしょう、いくつでしたっけ?」


「え、僕41ですよ。言ってませんでした」


「えっ、うそ! 41。てっきり30代前半位だと思ってました」


「いやー、赤城副会長にそんなに若く見られていたとは、嬉しいですね。マロングラッセもいります」


「うぐっ、いります。下さい。……お持ち帰りって有りですか?」


「いっぱい作ったので、勿論いいですよ、弟さんの分ですか?」


ピクッ「そーなの!! 冬くん、栗が大好きなの! あ、写真見ます、超可愛いんですよ!!」


「へー、赤城副会長に似てますね、10歳でしたっけ、可愛い盛りですね」


「うん、も~う本当に可愛いの、世界一よ!!……って話しが逸れたわね」


おっと、いかんいかん。弟の話しだと止まらなくなりそうだ、先生の何を相談されていたんだっけ? 

そうそう、この部屋から出づらくなったって話しだ。でもこの階は美術室と美術準備室しか無いから元々生徒が滅多にこない場所なんだよね、だからそんなに心配することも無いんじゃないかな、会長は激怒りしそうだけど。


「ま、すぐに落ち着きますよ、女子高生の流行り廃りは速いですからね、ちょとの辛抱です、じゃあ私は教室に戻りますね。ごちそうさまでした」


「そんなものですかね。あ、モンブランとマロングラッセ包んどきますから、放課後にでも取りに来てくださいね」




「へへ、冬くんにお土産、喜んでくれるかな」


浮かれていたら美術準備室を出て階段を降りる所で、出待ちしていた十人程の女生徒にとり囲まれた、怖!!


「副会長! あのバリスタのお兄さんが美術の先生って本当ですか!!」

「桐生さんとは付き合ってるんですか!!」

「独身ですか! どうやれば美術の授業増やせますか!!」

「生徒会に入れば会えますか?」

「くん、くん、副会長、栗みたいな甘くて良い臭いしますけど、何か食べました!」


おい、最後の奴鋭いな、どんな臭覚してんだ。

あ~、ごめん先生、これは暫くは駄目かもしれない。


頑張れ。





※小布施の新栗モンブラン超美味いよ、長野に来たら是非。

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