第21話 黒埼明日菜vs桐生美鈴4

黒埼明日菜は、まだ少し痺れが残る自身の右手を見つめながら愚痴る。


「くっそ~、美鈴さんてば、なんてサーブ打ってくるのよ。あんな細い身体でゴリラみたいなパワーね。はっ! 胸か! 胸が揺れる反動を利用して打ってるのか!!」


まだ、最初のサーブを受けた時の衝撃が右手に残ってる。2回目は青桐先生が受けてくれたから良かったけど、不味いわね、このままポイントを取られ続けたら押し切られる。こっちには、あんなサーブを打てる者は居ないしな。

1セットマッチにしたのは失敗だったか、でもこっちは体力的に3セット行けるのは私だけだろうしな。

この後どう戦うか考えていると、先生に話しかけられる。


「桐生さんのサーブ凄いですね、今時の女子高生はあんなサーブが打てるんですか?」


先生がやや呆れたように美鈴さんを評価する、いやいや、あんなの基準に女子高生を語らないでください、あれは規格外の生き物ですから。


「青桐先生さっきは助かりました、確かにあのサーブを連続で受けるのは、ちょっときつかったですからね」

「それにしても先生は、バレーボールの経験があるんですか? しっかりレシーブ出来てましたけど」


「学生の時、体育の授業ではやった事ありますから、レシーブ位は大丈夫だと思ったんですが、桐生さんのあれはちょっと自信無くしますね」


さすが青桐先生だ、そんなバレー初心者同然であの高速サーブをレシーブ出来ちゃうなんて! 他のメンバーでは、ちょっと無理だろう。

う~ん、勝つためにはここは先生に甘えるしかないか。


「……青桐先生。リベロになって、出来るだけサーブ拾ってもらえますか」


「?、すみません勉強不足で。リベロと言うのは何やればいいんですか?」


「レシーブ専門の選手です、拾ってもらえれば、後は私がなんとかしますから」


「えぇ~っ!! あのサーブをずっとですか、さすがに全部は拾いきれませんよ」


「半分も拾ってもらえればば十分です。春ちゃん、秋ちゃん、夏くん、先生がボール拾ったらなるべく真ん中に高く上げて」


「了解。まぁ、それしか私達には攻撃手段がなさそうだしね」


「さぁ! 反撃するわよ。見てなさい、美鈴さん!!」





そんな明日菜を赤城春が優しく見つめる。


「お~お~。さすが元アスリート生き生きしちゃって、顔が笑ってるよ、黒埼会長」


元気になっちゃって、ふふ、思わぬ拾い物 (青桐先生)で勝機が見えちゃったかな、うちの会長さんは。

相手はインターハイ優勝の女子バレー部のレギュラーだ、私だって桐生さんのあのサーブ見ちゃったら、やばい負けるって思ったからな、あまり運動神経の良くない秋ちゃんや夏くんじゃ絶対に拾えそうもないしね。


さてさて、責任重大ですよ、頑張ってくださいね青桐先生。ニヤニヤ




「秋先輩、黒埼会長と副会長がニヤニヤ笑ってるんですけど~」


「夏くん。こういう状況で笑える人種は、将来大成功するか、無一文になるかの二択よ、気を付けなさい!」





青桐先生がリベロ役になってボールを拾い始めると、試合が拮抗し始める、黒埼会長のスパイクは決まるのだが、こっちのサーブは簡単に拾われてしまい、中々連続でポイントを重ねることが出来ない。唯一の救いは、青桐先生がしっかりリベロの役目を果たして、ほとんどのサーブやスパイクを拾っていることだろう。そのおかげで点差が大きく広がることもなくゲームが進んで行く。




「なぁ、黒埼会長の殺人スパイクも凄いけど、あの先生も凄くねぇ、うちの女バレの球ほとんど拾われてるぜ」


「乱れた髪も、汗で貼り付くYシャツも色っぽいです、鉄先生~♡」


「うわっ、江戸川さん!!」

ポイント22-24で試合が動く。

相手チームの住之江さんが打ったスパイクを青桐先生が辛うじて拾い上げ、秋ちゃんがひょろりと高いトスを上げる。黒埼会長のここまで一度も拾われてないスパイクが炸裂する。


このスパイクに桐生美鈴が反応した。いや、してしまった。


「来るっ!! このまま一本も拾えないなんて私のプライドが許しませんわ。キャッ!!」


バチィーーン!!と凄まじい音がして、レシーブした桐生さんの腕が弾かれる。まるで至近距離で爆弾が爆発したように、吹っ飛ばされる桐生さん。ボールは勢い良く体育館の天井まで弾かれ、そのままギャラリーに飛び込んだ。

シーンと静まり返るギャラリーと、尻餅を付きながら呆然とする桐生さん。


おいおい、桐生さん無茶するなぁ。黒埼会長のバズーカ砲みたいなスパイクを受けるなんて、自殺願望者か。

腕、大丈夫かな、折れてない?


「な、なんて力ですの……。ゴリラ並みのパワーですわ、くっ、腕が痺れて動きませんわ……」


そしてゲームが再開されるが、秋ちゃんの下打ちのヒョロっとしたサーブが無情にも、腕が痺れて動けない桐生さんに向かって飛んで行く。拾いに行く動作を見せるも腕が上がらない、ポーン、ポーンとボールが桐生さんの足元で跳ねる。

デュース、24-24。


後、2ポイント。生徒会チームの攻撃は続く、桐生さんが動けないことに動揺したバレー部に、黒埼会長の止めのアタックが襲う、あの桐生さんですら止められないスパイクには、誰も反応することが出来なかった。




主審のホイッスルがピィーーーッと長く鳴り、試合終了を告げる、生徒会チームの勝利だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る