朝から逃げ、昼を嫌い、夜に怯える。

ひよこ

第1話

今から書くのは、私の人生に限りなく近い誰かの話です。



出かけよう、そう思ってセットしたアラームを消去する。

何回それを繰り返しただろうか、いつしか外出と云うものが嫌になった。

嫌という表現は間違っているかもしれない。

受け付けないのだ。体が外出を拒んでいるのだ。どうしても行かねばならない用事も、どうでもいい用事も、散歩も。


唯一例外があるとすれば通院だろうか。

私の生活において薬、特に睡眠薬は必須だ。

もし薬が無ければ外出はおろか、日常生活をまともに送ることすらできないだろう。

そして薬を得る為には病院に行かねばならない。

メンヘラのジレンマとでも名付けようか。

外出と薬、2つを天秤にかけた結果がこの例外なのだ。

頓服薬を大量に持って、少しだけ市販薬のオーバードーズをして、何か本を読みながら、1時間半電車に乗る。

たまに、5回に1回くらい、パニック発作を起こしてしまう。パニック発作といっても、ごくごく軽いものだから頓服薬でどうにかなる。まあならない時もあるけれど。


電車は、街は、外の世界は、人が多すぎる。音も色も匂いも多すぎる。

聴覚も嗅覚も過敏気味な私にとって外の世界は刺激が多すぎるのだ。

あんまり刺激が多いものだから嫌に、いや怖くなってしまう。


多分人間のことも嫌いなのではなくて、怖いんだろうと思う。

自分にとって予想外の行動や言動をするし、規則性も何もないし、感情で動いたり、動かなかったりする。


小学校に入ったあたりから自分と、いわゆる『普通の人』との違いが顕著に現れてきた。

私はあまり集団生活に向いていなかった。

指示を待って、指示に従って、『みんな』と同じことをするのに向いていなかった。どうして『みんな』と仲良くしなければならないのか理解できなかった。どうして全員で同じことをする必要があるのか分からなかった。


そしてコミュニケーションも上手くできなかった。なぜか同じ言語を使っているのに通じていないし、言われることもよくわからないのだ。

今から思えば、きっと精神年齢の差が激しかったのも原因の一つかもしれない。

一番の原因は、私に感情が少ないことだった。別に無いわけではないのだ。


学校で飼っていたウサギが死んだ時、クラスのみんなは泣いていた。なぜか世話をしていなかった人も泣いていた。

2年2組のクラスで泣いていない女の子は私1人だった。


どうしてウサギが死んだくらいで泣くのか分からなかった。しかも良く知らないウサギが死んだというだけで感情が動くのが理解し難かった。


それからしばらく経って、自分が人より感情が少ないことを覚えた。

どうすれば上手く馴染めるかも、先生に好かれる方法も、クラスメイトと話す方法も覚えた。

結局は観察とトライアンドエラーを繰り返して、パターンを掴めば楽なのだ。

それに気づくまでに1年と半年かかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

朝から逃げ、昼を嫌い、夜に怯える。 ひよこ @qasw

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ