李徴の妻
@hasumiruka
第1話 廃屋に住む妻
「こんな家に本当に人が住んでいるのか」
と、
だが、ここに住んでいると聞いてきたのだ。
ぐるりと回った反対側に玄関があった。玄関も、屋根が今にも崩れそうで怖いぐらいだったが、よく見るとあちこちに応急手当のような修理がされていて、住んでいる人がいるらしいことだけはわかった。
何度か声をかけると返事があって、玄関の扉が開いた。
出てきた女性を見て、袁傪はもう一度驚いた。こんな家にこんな美しい人が住んでいるのかと、思わず目を見張る。
身なりはいかにもぼろといってもいいほどに粗末だし、かざりっけは一つもない。にもかかわらず、肌はつやつやし、澄んだ眼差しがいかにも清楚で美しかった。年はもう四〇近いか越しているはずだが、二〇台にしか見えない。
昔、結婚式にも出たし、何度か会ったこともある人だった。当時から美しい人ではあったが、多くの苦労を経たはずなのに、かえって美しくなっているといってもいいくらいだった。
彼女は目を丸くした。
「これは、これは、袁傪様ではありせんか……お久しぶりです。こんなところへよういらっしゃいました」
「おお、覚えていてくださったか。お久しぶりです。十年か、いや、もっとでしたか」
「今日はどうなさいました? 夫はおりませんが……」
「はい、実は、その李徴のことでお知らせしたいことがあって……」
彼女の目が翳った。唇をかむと、何も言わず少し身を引く。
「そうですか。どうぞ、おあがりください。この家は今にも崩れそうに見えるとおもいますが、すぐに崩れることのないようにしっかり補強はしています。ご心配なく」
家の中は、貧しさはあっても小ぎれいにしていた。子どもたちが、柱の陰から出てきて挨拶をしていった。十二、三ぐらいの女の子と、少し小さい弟の二人。恥ずかしそうにしながらも行儀は良さそうだった。服は粗末だったが、血色もよく、元気そうに見えた。
「こんな美しい妻と、かわいい子どもがありながら、李徴よ、お前は……」と内心思いながら、すすめられるまま、椅子に腰を掛けた。
お茶を出してくれる。
「夫のことが何か分かったのですね?」
「いや、それが、実は……」
袁傪はためらった。言うつもりで来た言葉がすぐに出なかった。
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