第13話


 それからは平和――という訳ではないけれど――に時間がすぎ、ついに一ヶ月が経とうとしていた。

 世界の裏側での作業もついに、


「終わりましたぁ!」

「ああ、終わったよ」

「こっちも完璧!」

「ええ、ええ。完成ね」


 魔女たちの前には、修復が終わり見違えるほど美しく生まれ変わった"世界地図"。

 色鮮やかに、さまざまな技法でつくられたその地図はなんだか生き生きとして、まるで本当に世界そのもののようで。

 魔女たちはしばらく、完成した地図を見つめていた。


「――――終わったか」


 かろりと下駄の音。振り向けば、神官たちを引き連れた神がそこにいた。


「すごい! すごいです!」


 ヴェルトが真っ先に声を上げて地図に駆け寄っていった。他の神官たちもその後を追って皆で地図を囲む。ここは、これはとキラキラした目で聞いてくるのを魔女たちが答える。


「どうかしら。お気に召した?」

「ふん、まあまあだな」

「あらあら」


 一歩引いたところでそれを眺めている神に、エマが声をかける。いつも通りの、皮肉いっぱいの言葉。けれど、その目は


「…………神様?」


 かろり、下駄が鳴る。

 エマの呼び掛けに答えないまま、神は皆の輪の中へ入っていってしまった。




 


「これでアンタともサヨナラ。清々するわ」

「またレイナさんったらそんな事言って」

「素直じゃないね」

「あらあら」


 神との契約はこれでおしまい。仕事が終わった魔女たちはそれぞれの居場所へと帰ることになった。


 ここから先は、神の仕事。

 魔女たちの力で補強された世界を足場にして、向こうの世界に対峙する。どのくらい続くのか、どんなことが起こるのかが分からない。

 何かあった時のため、補修が必要になったときのためにここに残ろうかと言ったのだけれど、必要ないと一蹴されてしまった。


「何が起きるか分からないから、家族と一緒にいた方がいいって言いたいんですよ」


 あの人、なんでもっと素直な言い方ができないんでしょうね。とヴェルトが言う。

 そういうことであるならと、魔女たちは素直に帰ることにした。必要になったら呼ぶこと、と約束して。


「アンタはもっと駄々こねると思ってたんだけど」

「ええ、ええ。本当はここにいたいのよ、でも」

「つまみ出すぞ」

「なるほどね」


 帰る家はあっても待っている人などいないエマは帰る必要がないのだけれど、神はそれを許さなかった。



「短い間だったけれど、楽しかったよ」

「皆でまた集まりたいですね」

「ええ、ええ。それはいい考えだわ」

「どうせまたここに来る事になるでしょ」


 部屋を出て、扉をくぐる。

 目の前には地上に続く階段。


 あの時と同じように、進み出た神に四人の魔女が礼をとる。

 

 

「機織りの魔女、メイサ・テクスタイル

 刺繍の魔女、マヤ・エンブロイダリー

 棒編みの魔女、レイナ・ニット

 かぎ編みの魔女、エマ・クロッシェ


 ――――苦労をかけた。礼を言う」





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