第2章
第14話 旅の一幕
思えばもう35年……いや36年前になるのか。とある大きな戦いがあった。
私がまだ大人になったばかり、王都を拠点に活動する様になった頃の話だ。
周辺地域の魔物や魔法生物が集まっての大乱戦。
種族毎に別れ、他は全て敵。熾烈で混迷極まる、とにかく酷い戦いだった。
縄張り争いなんて放っておけば良い?
街の近くにまで押し寄せれば人間だって戦わざるを得なかったのさ。
まさしく人間の縄張りを護る為にな。
そもそもの原因はドラゴン2匹の争い。
今の私からすればどうって事無いが、中々に強い奴らだった。
そいつらが周囲を巻き込んで大暴れしていた所為で、多くの生物達が住処を追われた。
しかし魔物も魔法生物も大概の奴は好戦的だ。逃げた先で生きる為に戦い始めるのも仕方ない。
その恐慌が伝搬し更なる戦いを呼んでしまったと言われているが、とにかく異常な事態だったな。
けどまぁ、規模がデカいだけでぐちゃぐちゃな戦いだ。人間が参戦してから片が付くまでは早かった。
連携の上で魔法を放てるという殲滅力は相当な物だ。
それでも犠牲者は多く……敵味方問わず夥しい程の死が転がる、あまりにも凄惨な光景だった。
そんな戦場を駆け、一際大暴れして死体の山を築き上げ、遂には原因であるドラゴンをも仕留めてみせた男が居た。
誰よりも強く、誰よりも勇猛果敢。その悍ましくも輝かしい功績を称え、人は彼を英雄と呼んだ。
その男こそ――
「そう、私だ」
野宿中、焚火を挟んでアリーシャに過去を語った。英雄として語られる様になった最初の戦いだ。
陰惨な話で終わるのもどうかと思って、最後は冗談混じりにしたが……
「まぁ……うん、知ってる」
流石に知っていたらしく微妙な反応だ。
ドヤ顔で締めたのがちょっと恥ずかしくなってきた。
「コホンッ――そして戦場になったのがここ、レグナ平野だ」
咳払いをして続ける。
荒れ果てた地はすぐに整えられたし時間も経った。
今はもう、あんな戦いがあったなんて見ただけじゃ分かりゃしない。
「戦場……かぁ。――それにしても、ドラゴンが暴れただけでそんな大変な事になっちゃうんだね」
大きな戦いという物を経験した事が無いアリーシャだからこそ思う事もあるだろう。
物憂げな表情で鍋を混ぜながら呟くが、振り切る様に話題を移した。
ちなみに鍋は旅の中で彼女が勝手に買い足した物だ。
何でもかんでも焼くばかりなのはお気に召さなかったらしい。
要らないと思うんだけどな……私の荷物が少ない分余裕があるから何も言わなかったが。
いやそんな事より、せっかくの疑問に答えてやろう。
「実は世間一般にはあまり語られてない事情がある。ドラゴンの所為ってのが分かりやすいからそればかり広まったんだ」
「へー……聞いた事無いや」
詳しく調べれば誰でも知り得る、というかハンターなら大体知ってるんだけどな。
実技に時間を掛け過ぎて勉強が足りなかったかもしれない。まぁいいか。
「その頃は丁度、東のクローゼ港を作る為にまず道を作ってたんだ。王都から東の海岸沿いにグルリとな。当然、少しでも安全を確保する為に敵は減らすか追い立てる訳だ」
平野の北は王都、南にも街。
そしてドラゴンが暴れたのは西の山周辺。
勿論其々距離は有れど、そんな地勢でそんな事情が重なってしまったなら……
「じゃあ西と、北から東の魔物達が丁度この平野に……」
「そういう事だ」
良かれと整備を進めた事が一因になった、なんて国としても態々広めたくは無いというのも理由の1つだ。
ただ運が悪かっただけだろうと、事実は事実だからな。
「その所為か街道の整備には随分気を遣う様になったらしいが……まぁこれ以上膨らむ話でも無いか」
語る事は語ったから話を終わらせた。
なんか私って本当に話下手だな……適当な事を嘯くのは得意なんだけど。
「そう? 戦いの話ならいくらでも……」
「これ以上詳しくは……のんびり食事中に語るにはちょっと重いかな」
だったら最初から違う話をしろって言われそうだ。
この話下手はどうにかしないとな。
「ああ、王都と言えばいよいよ明日到着だ。流石に私も楽しみかな」
「エルちゃんでも? 王都なんてよく知ってるんじゃないの?」
とりあえず他の話題でも、と考えて適当に呟く。
急な切り替えにも合わせてくれて助かるわ。
「死んでから11年。しかも旅に出てたからそれ以上空いてるんだ。もうよく知ってるなんて言えないさ」
現にこの平野、というか街道周りだって昔より整備されて綺麗になった。
王都なんて大きな街なら変化も大きいだろう。
「そっか。私はもうじき始まるって言う闘技大会が楽しみだなー……どんな凄い人達が出るんだろう」
そういえばまだアレが続いてるんだったか。
抜けてるアリーシャでも行先の事くらいはちゃんと調べてたんだな。
その闘技大会は私の活躍にあやかって始まったものだ。
昔からそういう場は度々作られていたらしいが、今回は随分と長く続くもんだな。
ちなみに、圧倒的実力で頂点に君臨した男こそ――
もうこのネタはいいか。うん、私だ。
ついでに言うと参加したのは初回だけだ。
結果の分かり切った大会なんぞ誰も望まないだろう。
特に参加者からすれば、きっと目の上の瘤でしかない。
「私は参加するつもりも無いけど……お前の活躍は期待してるぞ」
「うぇっ!?」
そんな事はともかく、ニヤリとアリーシャを見やると変な声を上げた。
まぁ予想外だろうよ。今思い付いたからな。
「今どれだけやれるのか力試しだ。行ってこい」
アリーシャには経験が足りない。その所為か自信も足りない。
未熟なのに自信過剰な奴よりよっぽどマシだが、ともかく良い機会と言う奴だ。
「……一応聞くけど、拒否権は?」
「ふふっ……楽しみだな」
「どっち!? ていうかもしかしなくても拒否権無いよね!?」
安心しろ。武器どころか魔法も手加減必須だから大怪我なんてしない。
むしろ相手と場に合わせて力の調整も出来ん未熟者は恥を晒す事になるだろう。
良くも悪くも見世物だから割と安全だ。
強者同士ともなるとかなり苛烈な真剣勝負になるけど……当人達は実力の線引きが出来てるから問題無い。見てる方も盛り上がるしな。
まぁなんにせよ楽しみだ。
そんな、旅が始まって数ヶ月のとある日。静かな夜の平野にて。
のんびりとした時間が過ぎて行った。
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