第2話 出逢い

 とは言ったものの……どうしよう。


 人に紛れるにしたって、素性の知れない子供だぞ。

 保護してもらうなり方法はあるけど、相応の理由が必要になるだろう。


 とりあえずドラゴンに戻って、ぐるぐる悩むままぐるぐる飛び回る。

 街の近くまで行ったら大騒ぎだ。

 良い感じの場所に降りるまでに考えが纏まると良いけど……






「なーんも思いつきませんでしたっ!」


 森へ降り立ちながら変身して着地。

 何も解決しなかった。本当にどうしよう。

 細かい事を考えるのは苦手なんだ。


 せめて裸くらいはどうにか……服も体の一部と考えて変身すればイケるか?

 体の大きさとか諸々を完全に無視した変身だしな。試してみよう。


 でもその前に――


「なんか居るな。誰か戦ってるか?」


 てこてこ歩いてたら魔力を感じ取った。


 離れた所に随分と弱ったのが1人。

 かなり荒れてるから戦闘中だと思うけど、危険な感じだ。

 なんで1人で……皆やられたか?


「流石に見殺しは寝覚めが悪いか……」


 そのまま走って向かってみる。

 体が小さくて動かしづらいな……生前以上に速いけど、どうにも違和感が凄い。



「いーやーっ! なんなんもぉーっ!?」


 近付いて行くとなんか聞こえた。

 オーガ3体に追われる少女……ハンターの見習いっぽいから16歳くらいだろう。

 思ったより元気そうだ。


 助けるにしてもこんな姿じゃ後で面倒だし、ドラゴンの姿で一掃しよう。


「なんでこんな目に――――え?」


 姿を現してやると、少女もオーガ達も動きを止めて俺を見る。


「あ……死んだ。私死んだ。さよなら皆……」


 死なんよ。


「ぎゃぁぁああ!!?? ……あれ?」


 轟音と閃光と共にいくつもの雷を降らす。

 少女の周りは逸らして、敵だけを消し炭にしてやった。


「生きてる……えっ、なになになになに!?」


 少女の目の前に降り立って、ズイっと顔を近づけて様子を見てみる。

 尻餅をついて後退ろうとしてるけどまともに動けてない。

 それにしても元気だな。魔力は限界ギリギリの癖に。


「お前……かなり消耗してるのに、なんで無傷で元気なんだ?」


「なぁあーー!? しゃ、しゃべ、喋ったぁ!?」


 あ、つい普通に話しかけてしまった。


「うるさい、叫ぶな。食うぞ」


「ごめんなさいっ! 食べないでっ!」


 本気でビビッてるらしい。面白い奴だ。

 でもまずは一旦話を聞きたい。


「で? 一体何がどうして1人で追われてたんだ?」


「あ、えっと……私、見習いを卒業して本格的に仕事をする事になりましてっ! 今日から!」


「うん」


「そしたら隊からはぐれてしまいましてっ! 迷ってたらオーガ3体に囲まれて……あ、さっきのとは別です!」


「そうか」


「とりあえず全力でぶっ飛ばしたんですけどっ! 後からまた3体出てきて追いかけられてました!」


「馬鹿なのか?」


「はい! よく言われます!」


 隊からはぐれた状態で後の事を考えずに全力で戦うなんて、見習いで何を習ったんだ。


 けど、逆に見習いを卒業したばかりなのにオーガ3体を無傷で倒せる様な実力がある訳か。

 馬鹿で強い新人とは……苦労しそうだな。周りが。


「隊と連絡くらい取れるだろう。何をしてるんだ」


「それが……その……」


「失くしたか。ホントに馬鹿か」


「はい……」


 連絡用の魔道具さえ失くすとは。もう1年見習いに戻るべきだ。


「まぁ無事なら良いか。じゃあの」


「ちょちょちょちょ、放置していくんですか!? せめて安全な所までお願いしますっ!」


 怯えながら厚かましい奴だな。


 でも酷く弱ってるのは間違い無い。

 やたら元気なのは追い詰められておかしくなってるだけかもしれない。


「まぁ別に構わないけど……そうだな、ちょっと待て」


 人に明かすつもりは無かったけど、これも良い機会かもしれない。

 人間としてコイツに保護してもらおう。

 脅せば秘密にしてくれそうだしな。


「この姿なら騒がれずに街まで行けるだろう」


 パッと変身。服もどうにか作れたから裸は回避した。

 シンプルなワンピース1枚だけど、この見た目に合わせた簡単な服となるとこんなもんだろう。


「…………」


 目をパチクリするだけで反応が無い。余計に混乱してるな。


「かわいー! なにそれ!? なんですかそれ!?」


 と思ったら抱き着いてきた。コイツ距離感おかしいな……なんなんだ。


「逆になんだその反応はっ! 鬱陶しいな、もう!」


「痛いっ! ごめんなさいっ!」


 振り解いたら転がった。弱った相手にちょっと力加減を間違えたか。

 まぁいい、まずは立場って物を分からせてやらなきゃな。


「いいか、そこらのドラゴンとは格の違う存在だぞ。その辺り良く考えろよ」


 そのまま転がった少女の額を軽く踏み付けて威圧。

 裸足だから痛くは無いだろう。


「は、はいっ分かりました! ていうか見えてますっ、パンツ履いてください!」


「何処見てんだ、コラ。ちょっとは恥ずかしいんだぞ」


 試しに簡単な服を作るだけで精一杯だったんだよ。

 この姿になったばかりで良かった。女の子としての自覚が芽生えてたら危なかったな。


「なら尚更どうにかしてくださいよ! これ私が悪いの!?」


 確かに理不尽か。とりあえず足は降ろしてやろう。

 ていうか踏まれて威圧されて、なんでそんなとこ見てるんだ。余裕か。


「ふん……ドラゴンがパンツ履いてる訳無いだろう」


「ならその服は何……?」


「裸よりはと思って、試しに体と一緒に変身させただけだ。パンツはそのうち頑張ってみよう」


「なるほど……よく分かんないけど分かりました。是非頑張ってください」


 会話をしつつ、少女が起き上がるのを待つ。

 とりあえずさっさと街に行こうか。


 後はもう成り行き任せで良いだろう。正直考えるのが面倒になってきた。


「さて、街はあっちだったな」


「分かんないです」


 コイツ……まぁいい、行こう。

 突っ込むのも面倒だ。

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