とある竜の恋の詩
桜寝子
プロローグ
第1話 終わりと始まり
富、名声、力。この世の全てを手に入れた……様な気がするから旅に出た。
何もかもがつまらなく感じていたけど、そんな自分が何よりもつまらない人間なんだと悟ったから。
もう今更だけど、自分探しの旅ってやつだ。
だけどそんな長い旅の道すがら。
ふと出くわしたドラゴンの炎によって、俺の人生は終わった。
うん、終わった筈だったんだ。
気付いたら真っ白で小さなドラゴンになってた。何故?
「おお、目が覚めたか」
「~~!?」
混乱している俺の後ろから声が響いた。
俺を殺したドラゴンじゃねーかと更に混乱。
しかし言葉は出せず、ただギャーギャー叫ぶだけだった。
「まだ人の言葉は喋れんだろう。構造が違うからな、慣れるまで暫くかかるぞ」
なんでドラゴンが人の言葉を喋ってるんだ?
この状況も何もかもが分からない。
「少しずつ説明してやるから、ちょっと落ち着け。な?」
暴れようとする俺を尻尾で押さえつけてくるから、言われた通り大人しく説明を待つ事にした。
相対するだけで分かる、圧倒的な力。そこらのドラゴンとは格が違う。
強いと自負してきたけど、目の前の存在が恐ろし過ぎて縮こまるしかない。
俺が大人しくなったのを見て、そいつはもう一度口を開いた。
「あの時はたまたま寝起きでな……近くにとんでもない魔力を感じたから、思わずやってしまった。人間だと気付いた時には消し飛ばしてしまっていたよ」
謝んねーのかよ。そのまま説明入るのかよ。
俺は寝ぼけて殺されたのか?
開口一番から納得いかないけど、とりあえず全部聞こうか。
騒いだら物理的に潰されかねない。
「自分の力を疑問に思った事は無いか? 稀に居るんだよ、お前みたいな人間が。私もそうだった」
ずっと思ってたよ。
桁違いの魔力に物を言わせて滅茶苦茶戦ってきたからな。
だから何でも出来た。だからつまんなかったんだ。
あまりにも人と違い過ぎて孤独だったんだ。
そんな自惚れも目の前の奴に砕かれたけどな。
ていうか私もってどういう事だ?
「根本的に何かが人間からズレた魂ってやつだ。そういう奴は死ぬと特別強いドラゴンに生まれ変わる」
なんだそりゃ……異常だって事は分かったけど、それがなんでドラゴンになるんだ。
「理由なんて知らん、とっくに考える事もしなくなった。私以外にも居るから、いつか出会えたら聞いてみろ」
疑問が顔に出てたのか、そこも説明してくれた……いや説明になってないわ。
今度は呆れを顔に出してやった。
「何百年……もしかしたら千年以上も生きていればそうなるさ」
そんな曖昧になる程の時間を生きてるのかよ。
俺もそうなるって事か……
「むしろ早くに死ねて幸運だぞ。どうせずっと孤独に生き続ける羽目になってただろうからな。あんな苦しみは知らなくていい」
言うに事を欠いて幸運とか言い出した。
けど納得だ。そうなりたくなかったから、何かを見つける為に旅してたんだしな。
「長く孤独で居ると心が壊れていくのさ。自分が死んだってのを簡単に受け入れてる様にな」
心が壊れる……ね。
確かに混乱はしても死んだ事を全く残念に思ってない。
「絶望と諦観のままドラゴンになるよりよっぽど良い。私とは別の生き方を見つけられるかもしれんな」
まさに諦観した様に、溜息混じりにそう呟いた。
そのまま俺の反応なんて置き去りにして、ゆっくりと語る。
「罪滅ぼしも兼ねて暫くは面倒見てやる。その後はどうにか人に紛れて暮らせ。人間に変身出来るからな」
「私はもう全て諦めているが、この先も孤独でいれば本当にどうにもならなくなる」
「まぁ準備に何年か掛かるがな。ちなみにお前が死んでから多分5年くらい経ってるぞ」
という事らしい。
人間社会の中にドラゴンが紛れても余計に孤独感がありそうだけど……
それでも何百年も独りで居るよりはマシってか。
ていうか死んでから5年くらい経ったって?
「普通のドラゴンと違って卵じゃないし、何時何処で生まれ変わるか分からんからな。探したぞ」
ポカンと口を開けて呆けてたら、追加で説明してくれた。割と親切か。
さっきも言ってたけど、一応申し訳無くは思ってるらしい。それにしては謝罪が無いけど。
まぁ面倒見てくれるって事だし、暫くは色々とお世話になろうかね。
で、サクッと時間は飛んで更に5年。つまり死後10年。
ドラゴンとしての自分の力を知って、慣れて、体も成長して。
そうしてようやく人の姿に変身する事を教わる時が来た。
そんで教わった通りに変身をした結果――
「おぉーい! 俺メスだったんかーい!!」
現れたのはまだまだ子供な、素っ裸で真っ白な女の子。
生前と同じ白銀の髪をしてるって事は、眼も青いんだろうな。
ドラゴンのオスメスなんて自分の事でも判断出来なかった。
考えてみれば、生まれ変わったなら男のままなんて保障も無いわな。
「そうだったのか。まぁいい、とりあえずこれでもう教える事は無い気がするから終わりだな」
「軽いんだよ! もっとなんかあるだろ!」
「さて、私はまた何処かで眠るとするか。お前は好きに生きろ」
「早いって! 無視すんな! ホント心というか頭がぶっ壊れてんなぁ、おい!」
「じゃあの」
マジで行きやがった! 一瞬でどっか飛んでったぞ!
一応5年間は一緒に居たのに、なんて薄情な奴だ。
アイツからしたら、ほんのちょっとの時間でしか無かったんだな。
俺もいつかそんな感覚が当たり前になるのかな……
「はぁ……まぁ、なんにせよせっかくの機会だ。出来るだけ楽しんでみようかね」
うん、気ままに生きてみよう。
生前よりずっと強いからこそ、何も恐れずに好きにやれる。
どうせ早々に死ぬ事も無いだろうし、死んだら死んだで構わない。1回死んで未練も無いし。
いや、そうマイナスに吹っ切れるのがダメなんだよな。
とにかく、今度こそ何かを見つけられたらそれで良い。
と、そんな訳で……
俺の新しい、長い長い人生(?)が始まった。
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