2022-09-07 お題「ピアノ」
「弾けるのならばどこだって」
マスター(50)……男。ジャズバーの店長。
刑事(45)……男。ジャズバーの常連。
〇ジャズバー(夜)
カウンターでコップを磨くマスター(5
0)の前に刑事(45)が座っている。
刑事の目線はステージに向けられている。
ステージ上ではドレスを着た女性がピア
ノを弾いている。
刑事は目線をマスターに戻し話しかける。
刑事「マスターはピアノ泥棒って覚えてるか
い?」
マスターは刑事と目線を合わせず、グラ
スを磨きながら答える。
マスター「ええ勿論。少し前に流行った深夜
に楽器のある家に忍び込んではピアノだけ
弾いていなくなるっていうアレでしょう?」
刑事「ああ、ピアノを聴くとどうしても思い
出しちまうんだ。アレの犯人、捕まってね
えんだよ。全く何やってんだって話だよな」
刑事、自嘲気味に小さく笑う。
ステージの方から別の曲が流れてくる。
刑事、再びステージの方を向く。
ステージ上ではタキシードを着た男がピ
アノを弾いている。
刑事「いい曲だな。彼、新人か?」
マスター「ええ、少し前に私がスカウトした
んです」
刑事「へえ、マスターが」
刑事、黙って流れるクラシックバラード
に耳を傾ける。
他の客たちも刑事と同じように黙って演
奏を聴く。
演奏が終わると拍手が起こる。
刑事も小さく拍手をすると、懐から紙幣
を取り出しマスターの前に置く。
刑事「釣りは彼へのチップにしといてくれ。
いい演奏だった」
マスター、店を出る刑事の背中を見送る。
刑事が店を出たのを確認するとステージ
の方に目をやる。
ステージでは男が楽しそうに演奏を続け
ている。
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