転生したら王族の子孫にされて強すぎて大変です

大神律

第1話 転生代理人

もううんざりしていた。

度重なる不景気、何もしない政治、変わらない最悪な日々。

こんな世界に何の価値がある。僕はずっとこうやって苦しまないといけないのか。

苦しむだけ苦しめられてその先には何がある? なかっただろ。


だから僕は今日、転生代理人と会う。


駅から歩いて数十分、辺りは簡素な住宅街。そこに際立つ高いビル、その四階が転生代理事務所だ。

エレベーターを使おうとも思ったが、今日は階段を使おう。


僕の名は霧神慎二。どこにでもいる社会人だ。

もはやこれ以上言う事はないだろう。話すのも疲れたし、どうせ君たちは僕の声などどうだっていいからな。それに――――もうわかってるんだろ?


四階まで登り、ガラスの扉を開ける。若い男が薄気味悪い笑みを浮かべながらこちらへ歩いてきた。


「ご予約されていた霧神様ですね。準備はできていますが、さっそくなさいますか?」


準備か。僕はほとんど何もしなかったな。

こうも楽に事が進むなんて金を払うべきなのはこういうところなのかもしれない。

意味の分からないことを言ってしまった。ただ、いや、だからこそ僕は今から――――死ぬのだろう。


「じゃあさっそくお願いします」


代理人は僕に目隠しと手を縛り、錠剤を飲ませたのち歩かせる。それから浮遊感が少し感じて、耳を痛ませる細い音がして、涼しい秋の風がぶつかってきた。

段差を登って風が足首を冷やしてくる。


「最後に何かありますか?」


いよいよ最後か。

遺書も書いたし、家族にはちゃんと事をつけておいたし、特にはないか。

やり残したことなんてまったくないし、絶望してここにいるわけだし。でもやっぱりここに親を呼ぶべきだったかななんてちょっと後悔はあるけど、いや、それはいいか。


「ないです」

「そうですか。では――――」


背中を蹴られ、僕は飛び降ろされた。

怖さはなく、不安もなく、特段期待もなかった。

ただ僕はこの瞬間に覆った風がとても快適で嬉しくて、呼吸はできないけれど、今まで生きてきた中で一番気持ちよかった。安心した。



「ん?」



頭がグラグラする。と思ったら、首が寝ていないだけだった。

木の檻とその上から王冠被ったおじさんが優しいまなざしが。あれ、言葉もちょっとおぼつかないな。

仕方がないよね、だって僕は今、赤ん坊になったんだから。



<あとがき>

転生ものをまた書いてみた。

というかほぼホラーと風刺だけどね。

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