第26話 ツナマヨはおにぎりの革命ですわ!
ゴリゴリゴリ、カリ、コンコン
コポポ、ポ
ドリッパーからフワリと立ち上る香ばしい香りで部屋の中が満たされる。
「う〜ん、この香りに柔らかな苦味。やっぱり珈琲も紅茶もお湯の温度で味が決まるのよね」
私はマグカップを机に置いて一息ついた。
この3日間、西園寺家はとても静かだ、何せエリカお嬢様が旦那様と東京の会社の視察について行ってしまわれたので、私はゆっくりとした休暇を楽しんでいる。
お嬢様は紅茶派のお人なので珈琲党の私は自室で飲む事が多い、お湯の温度は低くても酸味が(80度ぐらい)、高すぎると苦味が出る(100度くらい)、日に日に上がる自分の技術に密かにほくそ笑む。(最適は92度くらい)
まぁ、エリカお嬢様が居ないのは何か物足りない気がするのだが、久しぶりの自由時間を満喫した。
西園寺家は賄(まかな)いも美味しいし、自由な時間も多い、ちなみに今日の昼食は喫茶店風のナポリタンにデザートには硬めのカスタードプリンだった、硬めのプリンにほろ苦いカラメルが絶品でした。
手首の腕時計をチラリと見る、さて、そろそろお帰りの時間かな?
私は机に広げていた参考書をパタリと閉じた。
バタン!
「おかえりなさいませ、エリカお嬢さ…」
ガシッ!
「えっ、ちょ、お嬢様?」
ズザザザザザザアーーーーーーツ!!
ダンッ!
帰宅の挨拶を遮るように、真剣な顔をしたエリカお嬢様に腕を引っ張られて壁際まで一気に押し込まれる。
見事なまでの電車道、エリカお嬢様の細い身体からとは思えないほどのパワーを感じる。
「戸田!」
「HA、ハイ!」
「ちょっと耳を貸しなさい」
な、な、な、何?私なんかしちゃった?お嬢様のお綺麗な顔が私の真横に迫る、あっ、なんかドキドキする、それに良い匂いが。
「戸田は知っているかしら?…東京のコンビニではおにぎりの海苔は味付け海苔ではないんですの」
「は?」
エリカお嬢様はいきなり何を言っているのでしょうか。
「
えっ、今日はエイプリルフールではありませんよね。大阪下町育ちの私を騙そうとしてます?
「ほ、本当ですかぁ〜?おにぎりの海苔は味付け海苔に決まってますよね」
「違うんですの!普段はコンビニではおにぎりは買わないんですけど、たまたま小腹が空いてしまって。ビックリして3軒まわってもどこも味付け海苔じゃなかったんですの、ヨヨヨ」
「は?東京では味のないおにぎりを食べるのですか?」
私の言葉にコクリとうなずくエリカお嬢様、その真剣なお顔で私はその事実を受け入れざるをえなかった。
「そ、そんな。同じ日本国内でそんな違いが、じゃ、じゃあ、東京の人はおにぎりを食べても手がしょっぱくならないんですか?」
「手を舐めもしませんわ」
私の言葉に再度コクリとうなずくエリカお嬢様、私はその現実をいよいよ受け入れざるを得なかった。
何、この関西人主従。
後で荷物を運んでいた
大阪のおにぎりの海苔は味付けのりなので手がベタベタするのだ、これは関東の焼き海苔派の人間には受け入れられない文化の違いだろう、信州人の作者もおにぎりには焼き海苔で育ってきたので、大阪で初めて食べた時はなんともいえない違和感を味わったものである。
生粋の関西のお嬢様であるエリカにとっておにぎりの海苔は味付け海苔が常識だ、慣れ親しんだ味を否定されて(まぁ、お嬢様がおにぎりに慣れ親しむのはどうかとも思うが)大きなショックを受けた。こんな衝撃は大阪以外ではたこ焼き機を家庭では滅多に買わないと知った時以来だ。
大阪では全国チェーンのはま寿司の軍艦巻きですら味付け海苔を使うほどだし、コンビニに並ぶおにぎりにはご丁寧に味付けのりと表記されている、焼き海苔派の信州人である作者としては軍艦巻きはせめて焼き海苔にして欲しいが、おにぎりはあれはあれで慣れると美味いと思ったので良しとしている。食文化は大切に。
ガシッ
「えっ、ご、ごきげんよう、エ、エリカ様?」
ズザザザザザザアーーーーーーツ!!
ダンッ!
翌日学校で戸田と同じように壁ドン状態で問い詰める。伊集院は突然の壁ドンに涙目だ。
戸田と二人で勢いよく追い詰めたので下手すりゃカツアゲされてるように見えなくもない。
「伊集院様、おにぎりには何 (味付け海苔、焼き海苔)を巻きます?」
「えっ、お、おにぎりですか?」
エリカの突然の質問にコテリと可愛く首を傾げる伊集院。
「えぇ」
「おむずびは牛肉で巻くのではないのですか?」
「まさかの肉巻きですわ!!顔に似合わず肉食ですわ!」
ガクリと膝をつくエリカと戸田。オロオロと慌てる伊集院、大丈夫だ伊集院、君は何も悪くない。
悪いのはここで九州人 (ちょっと特殊)の伊集院に聞いたこいつらだ、明らかに聞く人選を間違えているエリカ達だった。
それだったら日本全国にグループのホテルを持つ児島英治に聞くべきだった、本社は名古屋だが一般的な回答が得られた事だろう、ちなみに名古屋では焼き海苔だ。
ジョンブルのウイリアムズ王子など聞く価値もない。
「あら?西園寺様と伊集院様。そんな所で何をなさっているんですの?」
そこに通り掛かった綾小路が声をかける。
「「綾小路様!」」
カクカクシカジカ…
「え、おにぎりは家ではとろろ昆布で包みますわ、母が富山出身ですので」
「そ、それはそれで美味しそうですわ」じゅるり
関西人には馴染み深い昆布味に惹かれるエリカ、だがちょっと待て、それも求めていた回答ではないぞ。
おにぎりなんて無数にバリエーションがあるものである、作者の住む信州には野沢菜の葉で巻いたおにぎりもあるくらいだ(私は好きじゃないが)、狭い日本だが同じおにぎりでも地域によって食べ方は変わるものなのだ。
あれ?結局、何が言いたかったんだっけ。
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