第16話 200円以上は認めないのですわ!

※好奇心に負けましたわ!


「ふふ、ちまたで噂のブツ、とうとう買ってしまいましたわ」


エリカはガレージの片隅にくまモンカラーの愛車モンキーを停めると、キョロキョロと怪しげに辺りを見渡しながら自室に向かった。






深夜1時、西園寺家の屋敷の1室から微かに電子音が鳴っているのが聞こえた。


「エリカお嬢様?」


その音が聞こえた戸田はシャーペンを静かに勉強机に置いた。






ピピピッ!


タイマーが時間を知らせてくる、ベロリンチョと蓋を剥ぎ取ると粉末スープ、続いて液体スープを投入、だまが残らないように丁寧にかき混ぜる。ねるねるねぇ〜るね♪


「では、いただきますわ」


ゴクリと喉をならし丼に箸を入れる。

麺に箸をからませ持ち上げると湯気がモワリッと立ち上る、鼻腔をくすぐるのはとんこつの濃厚なスープの香り、透明感のあるコシが強いストレート麺は最近のラーメン界のトレンドと言える。


ズルルッルルッルルルル!!


「くっ!こ、これはですわ!」


麺の喉越し、クリーミーで濃厚なスープ、あまりの完成度の高さに驚き、衝撃を受けるエリカお嬢様。


「お、美味しいですわ!で、でも、やっぱり、1個500円は高杉君ですわーーっ!!」


エリカは正真正銘の純粋?な西園寺家のご令嬢だ、本来なら500円程度で目くじらを立てるような身分の者ではない、だが何故か安くて美味しい物をこよなく愛す人物なのだ、そのエリカにとって1個500円のカップ麺は受け入れ難いのだ、それがどれほど美味いとわかっていても!


エリカは丼を目の前に持ってくると側面に印刷された“一乱”の赤い筆文字を眉間に皺を寄せながら睨む。


「ぐぬぬ、確かにブランド物がお高いのは当然の事、それが商売と言うのは理解できますが、カップ麺は私(わたくし)の考えでは絶対に200円までですわ」


エリカは途中で味変するために残していた特製だれをカップに追加する、スープが赤みを帯びてコクを増したのが見るだけでわかった。


ズルルッルルウルル


「ぐぎぎ、め、麺とスープだけなのに、美味しいですわ!」


パッケージには麺とスープ本来の味をわかってもらいたいので、かやくはあえて入れてないと書かれている、おまっ、それで500円やと、チャーシューの1枚くらい付けろや、客なめとんのか、吉牛かて並盛り426円 (税込)やど!


「くっ、美味しいですけど、自腹で500円は…。ハッ、そ、そうですわ、お中元でいただければ…………だ、駄目ですわ名門西園寺家にお中元でカップ麺を送って来るようなお馬鹿はおりませんわ!」


ズルルッル!、タンッ


エリカはスープまで綺麗に飲み干すとプラスチックの丼を卓上に置いた、マホガニーの高級机にカップ麺の容器が置かれている光景は戸田が見たら苦言を呈しそうだ。いや、絶対に言う。


「やっぱり、これは無しですわ!!」


1個500円、コスパが合ってない、それだけの事で妙な気分にさせられる、こんな経験は初めてだった、エリカは丁寧に手を合わせると口を開いた。


「ごちそうさまですわ」


食後に麦茶を飲みながら一息つく。


「ふう、こんな気分にさせられるのなら、素直に心斎橋のお店で1200円 (何気に替え玉込みの料金ですね)払いますわ!その方が健全ですわ!」


健全とはなにか?わかるようなわからないような事を、まるで良い事でも言ったかのように宣言するエリカ、廊下で壁越しにそれに聞き耳を立てていた戸田は軽く両手を上げてその場から去って行った。






翌朝、珍しく食堂で両親と朝食をとっていた、小鳥のさえずりが聞こえる爽やかな朝だ。

瀬場州(セバス)が主人である光一にコーヒーを淹れている。


「サラダにフレンチトーストにカフェオレ、オシャレ過ぎてちょっと気持ち悪いですわ!ソース焼きそばでも追加してもらおうかしら」


エリカがテーブルを見て小さく呟くと給仕をしていた戸田に小声で咎められる。


「エリカお嬢様、昨日も深夜にラーメンお食べになっていたでしょ」


「ギクッ、な、なんで、それを知っているんですの」


「勘です」


「か、神っぽいですわ、かっけぇ…ですわ」





後日談


「そ、それにコスパを考えるとN社のドロラ王様のほうがスーパーで150円で売られてますし、最高に美味しいですわ!最強ですわ!」


車の中でカップ麺談義に熱弁を振るうエリカ、戸田はそんなエリカの戯言を右から左へ聞き流すのだった。

戸田は健康には気を使っているのでカップ麺は滅多に食べないのだ。


 



お読みいただきありがとうですわ!

カップ麺はどんなに頑張ってもお店で食べる方が美味しいですわ!1乱のカップ麺は美味しいかったけど認めませんわ!

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