第24話 可愛いは正義なのか

 星幽結社エルリンケイムから日本にやってきた怪人は、富士山麓の指定区域から外へは出ていない。

 エルリンケイム基地から離れそうになるたびに、五人の俺オレンジャーズがせっせと倒しているからだ。

 ある意味、良いトレーニングになっている。対怪人用スーツがパワーアップしたこともあり、今では黒メタリックの怪人ごとき指一本で倒せるようになった。


 俺は俺レッドに話しかける。


「俺、黒メタリックの怪人、指一本で倒してきましたよ」

「あれ、俺グリーンさんもやってたんですね。俺も試してみましたよ」


 同じことを、俺レッドも試していた。

 さらに俺ピンクまで。


「あら、俺グリーンさんも? 私も指一本で倒しましたよ」


 俺以外に、俺レッドと俺ピンクも、指一本で倒せるか試していた。なんだかんだで俺なので、同じことをしていたようだ。


 と思ったら、俺レッドはそれだけではなかった。


「俺、触れずに倒せるか試したんですけど、それは無理でした。なんとなく拳からオーラ的なものが発射できそうな感じがあるんですけどね」


 それは俺も思った。


「俺も思ったことはあるんですけど、試してはなかったな。今度やってみようかな」


「みんなでやってみましょうよ。どの俺が先に発射できるか勝負です」

「ははっ、面白そうですね」


 五人の俺オレンジャーズは、単調な怪人退治に新たな刺激を求めるほど余裕だった。



 ◇◇◇



 怪人退治が楽になった五人の俺オレンジャーズは、勤務時間内も優雅に過ごしていた。

 そんなある日のこと。


 怪人の監視をしつつ、俺と俺ブラックは、昼のワイドショー番組を見ていた。


 そのワイドショー番組は、エルフィンドールズの特集を放送していた。

 今、日本ではエルフィンドールズの人気が急上昇している。


 エルフィンドールズの一般人への露出は限られている。

 姿を見ることができるものといえば、今のところニュース映像ぐらいしかない。いつも同じ映像が流れている。

 それにも関わらず、エルフィンドールズの人気は急上昇、連日エルフィンドールズの特集が放送されていた。


 俺は俺ブラックへ話しかける。


「このところエルフィンドールズの特集ばかりですね」

「ですねぇ。まあエルフィンドールズの二人、日本人離れした可愛いさというか、地球人離れした可愛さですからね」


「ははっ、地球人離れした可愛いさですか。確かに俺も最初は妖精かなと思いましたし、二回目は天使かなと思ったものですよ」

「あ、やっぱり俺グリーンさんも? 俺もそう思ってましたよ」


「ですよねー。あの娘たち、あの見た目で怪人っておかしいでしょと思ってましたから」

「本当ですよ。今となっては、戦わなくても良いし、たまにお話しもできるし、最高ですよね」


 俺はのんびりと俺ブラックと語らっていた。

 その間も番組では、エルフィンドールズの特集が続いている。


 日本でのエルフィンドールズに対する論調は大きく変わっていた。

 以前の論調は。


『エルフィンドールズの見た目に惑わされてはいけない。あれは悪魔』

『笑顔でも目が笑っていない。瞳の奥に殺意を感じる』

『あんな危険な怪人は、早急に抹殺、排除すべきだ』


 それが今では。


『異次元からきた可愛い妖精。可愛いさも異次元級』

『天使の笑顔。あの笑顔で人を殺すはずがない』

『スタジオに遊びに来てほしい』


 手のひら返しにもほどがある。

 それに比べて五人の俺オレンジャーズは。


「全くオレンジャーズの話題が無くなりましたね……」

「まだエルリンケイムが脅威だった頃は、オレンジャーズもワイドショーのネタだったんですけどね」


「いやまあ、目立ちたくないので、良いんですけどね」

「そうですよね、目立ちたいわけじゃないんですけど、なんかねぇ」


「たまに話題になるときは不要論ですしね」

「酷い話ですよね。エルフィンドールズには負けたとはいえ、頑張ったんですけどね」


 諸行無常だ。


「ふぅ」


 俺は無意識に、ため息をついた。


「まあまあ俺グリーンさん、そう、ため息をつかずに。オレンジャーズが不要だと思われるってことは、それだけ平和になったということですよ」

「おお、さすがいぶし銀の俺ブラックさん! そうですよね、平和を喜んでおきますか」


 俺一人だと嫌になりそうなときもあるが、同じ状況で同じことを思っている仲間がいる。

 もっとも仲間というか、もともとは俺だけど。


 俺も五人の俺オレンジャーズの一員として、これからも頑張ろう。

 俺の頑張りが四人の俺赤、黒、黄、桃の頑張りへも繋がるはずだ。


 俺が気合いを入れ直していると、画面がCMに切り替わった。


『2024年エルフィンドールズカレンダー発売決定!』

『エステラちゃんとナタリアちゃんのステキな笑顔をあなたのお部屋に!』


 な、なんだと……。

 エルフィンドールズのカレンダーが発売だと……。

 五人の俺オレンジャーズのカレンダーは発売されないのに……。

 可愛いければ何でもありなのか……。


 俺はエルフィンドールズカレンダーが発売されることを知り驚愕した。

 俺は以前、こう願ったことがある。


『日本の皆さんにもエルフィンドールズの優しさと可愛いが伝わって欲しい。そうすればエルフィンドールズが平和を脅かす存在だとは思えないだろうから』


 確かに俺は願った。けれども日本、平和がすぎるだろう。


 俺は少しの疑問を抱きつつも、気がつけばネット通販サイトで予約ボタンをポチっていた。

 カレンダーが届いたらエステラちゃんとナタリアちゃんにサインしてもらおう。楽しみだ。



 ◇◇◇



 分身戦隊オレンジャーズ!

 地球から悪が滅びるその日まで、オレンジャーズの五人は力を合わせて戦い続ける!

 力を合わせると言っても、もともと全員、俺なんだが。


 つづく!

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