第40話 歓迎の中身
「広いですねぇ」
「そうでしょう。姐さん……隊長も言っていたでしょうが、ここの敷地面積は警視庁の総保有する土地の中でも、トップ5には入りますから」
「へぇ……でも暫定なんですよね」
「そこら辺は、すぐお話しできる内容ではないのですよ」
「色々ある……」
「ええ」
ラーマの言葉に納得はできないが、大人の事情という奴なのか。秀はもてなしでもらった二杯目のラッシーをストローで味わいながら、目的の部屋へと向かっていた。
その部屋は中央にある一番大きい倉庫の隣に位置する。小高い家屋にある外観は他と変わらないが、内装の違いは明らかだった。
近未来を感じさせるシンプルなデザインの小道具の数々が、雰囲気をITベンチャーのそれにさせている。秀はかつて自身の命運を変えた企業を思い出し、何となく嫌な気持ちになった。
「どうしました」
「ああ、いえ。ここだけ雰囲気が違うので」
「ここはですね。職員の要望でこうなりました。女将さん……野村隊長や姐さん……松島隊長が頭を痛めていましたね」
「そんなに大変だったんですか」
「大変も何も、予算がネックでしょう?ここまでになったのは、ほんの数ヶ月前ほどですよ」
色々とある。秀からしたら疑問が尽きない話ではあったが、自分を引き受ける部隊なのだから、普通とは違うのだろう、と納得させた。
そしてラーマのいう予算のやりくりの一端として、エレベーターがない事実に思い至るには、階段を全て登りきる必要があったのは内緒だ。
「さて、これから歓迎会が開かれます」
「あ、ええ。それはども」
「ハハ、緊張しなくて大丈夫です。最近問題になっているような、出し物なんてさせませんよ」
「あの聞いてないですよ、シュミレーターが何とかって」
「ハハハ。サプライズ、とでもいいましょうか」
「何されるんです?歓迎会でしょう」
「臨時行動隊、臨行ならではでしょう。他でも似たような事はしているとも聞きはしています」
ラーマは後は見てからだ、と言わんばかりにウインクをしてドアを開いた。
中は広い。ただ第一印象としてゲームセンターが思い浮かんだ理由として、一部分を独占する複数の卵状の筐体があった。
甲羅状の模様が施されたそれは、正面部分に長方形の枠があり、正に今上部に開かれている。
「おお、来たねぇ」
「女将さん、仕事は終わらせたんですか」
「終わらせたというより、終わっちまった。何せガキ達が張り切りやがった、予定時刻を二時間巻いたんだよ」
「それは、何とも」
「これじゃまた三班にどやされる。だから受け渡しはしてないのさね」
「やりますね」
「へへ、大目にみてやりなや、母ちゃんよ。今回は事が事だ」
背中を曲げて野村真智子整備班長の肩を叩くのは、彼女の旦那である野村正敏専属医だ。
「アンタね。擦り合わせはアタシがするんだよ。楽な立場からアレコレいうんじゃない」
「これでまた班員の愚痴聞かされるってなら、今アレコレ言っとく方が得ってもんよ」
「それがアンタの仕事だろう。何怠けてるんだい?」
大きな目を光らせた真智子に、正彦はすぐさま万歳をする。秀は二回りも上の男女による掛け合いを近未来的な空間で見せられ、矛盾の言葉を想起した。
「ハハハ……あんな感じです、いつも」
「ハァ……」
「すぐに慣れます。どっち側に転ぶか見ものですがね」
「姐さん」
敬礼をしたラーマに片手を上げた千恵は、ラッシーを片手にした秀を一瞥する。
「肝試しは準備良さそうですね」
(ええ〜)
「ん?」
「あの、姐さん。自分は彼に歓迎会と伝えて連れてきたので」
「なるほど。確かにこれは歓迎か?そう、と言えるかしらね」
表現に困る表情となった千恵は、顎でもって機械を示した。
「やる事は簡単。あの機械で少し遊んでもらうだけです」
「遊ぶ?」
「あれはシュミレーターです。GDM、GPMの操縦シュミレーション」
「あ、なるほど」
「一号機が警視庁配属モデルTGー15を始めとしたGDM。二号機がM200を始めとしたGPM。予備の三号機を挟んで、四号機」
隅の機械の口は、何故か秀には初見には思えない。
「FBCS。分かりますよね」
「ハァ、ええっと……」
「FBCSが分からないのか」
「FBCSだよ」
「ええ、まぁ聞いた事は……?」
「アンタ、Full・Body・Control・System。自分でやってただろ」
「やってた……」
「プロメテオのコントロール!分かるかい?!」
真智子の言葉無くしては、秀はずっと疑問を持っていただろう。プロメテオのコントロール系統の名称を失念していた彼は、大人達の懐疑的な視線に対し、変な引きつりでもって答えた。
「……まぁ、いいでしょう。つまり四号機でFBCSのシュミレーションを実施します。貴方はそれをこなす。以上」
「はぁ、分かり、ました」
「ご質問は?」
「何でシュミレーションしなきゃいけないんですか。肝試しっていいましたし」
「大人の都合、で今はご勘弁を」
「答えになってます、それ」
「後でまとめて話した方がいいと思っているのです。頭の中の代物もあるし、プロメテオ自体についても触れなきゃいけませんから」
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