第14話 空虚なる研修会

 〜2041年 三月某日 神奈川県某所

 株式会社 ジェネラル・ビジョン

 特別運用拠点 『ネクスト・センチュリー・タウン』

 AM9:10頃〜


 この日、秀は十数名の同僚である派遣労働者と共に、勉強会に参加していた。GDM関係の各種労務についての講演や資格支援アドバイザーとの1on1、メンタルサポートAIのアップデートキャンペーンといった催しが開催される。


「未経験でも平気とか言ってるけど、どうせまた使い捨てだろ」

「良くて正社員派遣だな」

「聞いたか。最近さ、派遣雇用と正社員雇用の切り替えが出来るとかなんとか……」

「いや俺わかんね。そうなん?」

「アタシもよく分からない」

「えっ、あんたが来るなんて笑えるんだけど」

「誰がまともにやるかよ。ウチは参加すると手当でるから出てるだけ」

「アタシあまり興味ないの。ロボに興味沸くわけないじゃん」

「でもでも皆来るみたい」

「うわまじめー……。えでもさ、正直だるくない?」


 年齢は殆ど二十代前半だ。その外見はケバケバしいメイクから堅物一辺倒まで様々だが、共通している点として、他人への興味の無さにあった。誰もが知人以外と話す気がなく、申し訳程度の挨拶を交わしたが最後、何かしらの端末に意識を傾けている。


(いやーキツイっす)


 前世から今に至るまで工場の派遣労働しかしてこなかった秀にとって、これは無視できないハンデとなった。ただでさえ会話の糸口を見つける事が不得手であるのに、知り合いは愚か顔見知りさえいない。

 次世代AIが生活に根差した現代の世において、わざわざ新たな人間関係を求める者は少ない。無論秀のように取り残された人間はそれなりにいるが、各々好き勝手に楽しんでいた。隙間時間では多種多彩かう理想的な創造物が青少年の孤独を容易く癒す時代、秀のような厄介者に触れる意味合いはないのだ。


(変……いや、向こうが今は普通なのか。というか俺もか。ああ……)


 秀もこの研修会には全くの意欲を持ち合わせていなかった。故に他人と話す気も無いのであるが、軽薄すぎる人間関係に思う事がない訳でもない。


(良い、のかな。俺みたいに会話が苦手な奴からしたら)


 秀はグループの先頭で身振り手振りを交えて会社の理念を説明する、若々しい社員を見た。七三分けをした几帳面なスーツ姿は、前世からのイメージそのまま、やり手の印象が強い。そして彼の背後には量産型のGDMを彷彿とさせた、ヘッドギアの見せる仮想空間に集中する他の社員もいた。

 恐らく開発などのデスクワークが主な業務なのだろうか、人など興味ないと言わんばかりに空中で空手を振り回す社員の姿に、新時代の人間の在り方を考えさせられた。


「……つまり私達ジェネラル・ビジョンが目指す究極の目標とは。人体の解放なのです。突如実現したGDMというテクノロジーを利用すれば、現状抱える問題の四割を解決できる事でしょう!」

(ご立派だ事)


 胡散臭いとさえ思える彼の演説、もとい解説に死んだ拍手を送った秀は、少しだけ眉を顰めた。

 ジェネラル・ビジョンのけばけばしいスーツではなく、落ち着いた黒のスーツを着た男女数名が、笑顔で近づいてきたからだ。


「初めまして。株式会社ノアで人事担当マネージャーを担当しております、神田淳子と申します」


 先頭を任されていた彼女の挨拶を聞いた瞬間、秀は背中に悪寒を感じた。何故かはわからない、だが確実に嫌な感触だったのだ。


「本日は弊社とジェネラル・ビジョン様で執り行う、転職研修会の参加ありがとうございます。これより私等の方からも、ノアの概要を説明させて頂きます」




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