第192話 ラスボス

「あいつらは負けたか……」




ジャリ


エリア51。


空を見上げていたエボラ教授は、落ち着いた声でそう呟くとこちらにクルリと振り返った、だから僕もこう返す。


「そうですね、貴女の計画は阻止させていただきました」


「ふふ、あいつらがこうもあっさり負けるとは思わなかったよ、流石は人類初の地球統一皇帝、お見事です」


「幸運にも僕のまわりには優秀な方が多いので、それにこれ以上この世界を乱すのを許すわけにはいきません、もう人と人が争っている時間は無いんですよ」


僕が言葉を返すと、きょとんと鳩が豆鉄砲を食らったような吃驚顔をするエボラ教授、ん、なんか僕変な事言った?


「ハハッ、失礼。貴方はてっきり加藤の傀儡かいらいだとばかりと思っていたので、これは見込み違いでした」


なるほど僕はそんなふうに見られていたのか。

エボラ教授がジッと僕を見つめてくるので目が合った、でもなんだろうこの違和感。

そしてそのエボラ教授の言葉に反応するのは僕の隣の幼女様だ。


「はっはっは、鉄郎くんが私の傀儡だと、アホか貴様、私は男に組み敷かれる方が好きなんだよ、清純派なんだよ、はっはっは」


僕の隣で腕を組みながら無い胸を張る白衣の幼女に呆れた視線を送る、誰が清純派だ見た目詐欺のくせに。

エボラ教授は貴子ちゃんをチラッと見ると再び僕と目を合わせた、そうか、わかった、この違和感の正体、教授と最初にニューヨークで会った時と目が違うんだ、あの時はこうもっと狂気に満ちたあぶない目をしていた、けど今は、静かで澄んでいる感じがする、賢者タイム?

実にまともだ。僕も負けじと観察するように教授を見つめる。



「だが陛下、私が巻き込んで散っていった部下の為にも、このまま一戦もせず引き下がるわけにはいかないのですよ、どうでしょう、私に一度だけでいい、陛下と戦う機会をもらえないでしょうか?」


「いいですよ、それで貴方を止めることが出来るなら」


「ちょ、鉄郎くん!こんな怪しげなババアの戯言なんかにつきあう必要はないよ、もうロックしてるし命令してくれれば一瞬で…」


エボラ教授に即答した僕に貴子ちゃんが詰め寄る、えっ、ロックって何?もしかしてなんか撃とうとしてた?危ねぇな。


「……貴子ちゃん、ここは僕にまかせてもらえないかな、多分この人は正面からぶつかればきっとわかってくれると思う」



「うん、わかった。……な~んて言うわけないでしょうがぁ!!」


貴子ちゃんはそう言ってキッとエボラ教授を睨むと、右手を高く振り上げ、勢い良く振り降ろした。


グゥワゴラガキィーーーーーン!!


「おわ!」


空気が裂ける轟音とともにエボラ教授が閃光に包まれた。

えぇ!これってバベルの塔から?黒夢くろむの仕業ぁ?


「ふふふん、この技はライトニングボルトと名付けよう」


腕を腰にあてて偉そうに反りかえる貴子ちゃん。本当にこの子は喧嘩早いな。


「お前は獅子座の黄金聖闘士か!ってエボラ教授を殺しちゃった!!」


「大丈夫、あのババアはこれぐらいじゃ死なないよ、鉄郎くんに舐めた口きくからお仕置きがわりだよ」


「そ、そうなの?あれでお仕置き?」


光がおさまると貴子ちゃんの言う通り、エボラ教授が無傷でパンパンと白衣についた埃を払っていた、マジか。

貴子ちゃんによるとバベルからじゃなくて空気中に帯電していた電気を集めてぶつけたらしい、うん、意味がわからん。


「ふふ、やっぱり加藤貴子だな、手足がちょっと痺れたじゃないか、年寄りはもっといたわれよ」


「はっはー、神経痛にはよく効いただろ、私からのサービスだ」


「ぬかせ」


しかし雷落とされて平気でいれるなんて凄いバリア使ってるんだな、流石世界No.2のマッドサイエンティストの肩書きは伊達じゃない。




「さて、お礼にお返しするのがジャパンの礼儀だったね、つまらないものですがどうかお納めください」


教授がパチンと指を鳴らすと地中から無数の柱がニョキニョキ出てくる、すっかり囲まれた、ムーミンに出てくるニョロニョロの大群みたいで気持ち悪い。


ガション、ヴゥウウヴゥ


ニョロニョロの頭から銃口みたいのが出て変な音が出てる。


「ねぇ、貴子ちゃん、僕凄くや~な予感するんだけど」


「大丈夫、今日のバリアはバージョン5だから、でも、くれぐれも私から離れちゃだめだよ」


バガガガガガガガガガガガァ!!ドキン、ギン、キン、ズギギッギギギギギン!!


僕たちを取り囲んだニョロニョロから一斉射撃される、うわぁ、バリアに当たる弾がキンキンうるせぇ!

バリアを境に円形に無数の弾丸がボトボト落ちて積み重なる、いったい何発撃ってるんだ、これが矢だったら諸葛孔明が歓びそうだな。(三国志の赤壁の逸話で曹操軍に自軍の船の藁人形に矢を撃たせて足りない矢を調達した話がある)

にしても貴子ちゃんやエボラ教授の使ってるバリアってこんなに硬いのか、全然攻撃が僕達に届かない、貴子ちゃんの場合婆ちゃんやお母さんに普通に殴られてるから初めて実感した。


「ほぉ、その透明度でその密度ですか、お互いバリアは互角と言ったところですな」


ニヤリとエボラ教授が笑みを浮かべる。


「互角?舐めるなよ真似っこババア」




キィアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーッ!!


上空から光が、これって!


「ちっ!」ブン


ズドォォォォォォォォーーム!!ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「うわぁぁーっ!!」


パラパラ…パラ…轟音と舞い上がった砂埃が晴れて視界が戻ってくる。


「ゴクリ」


何これ、地面が無い!貴子ちゃんと僕のまわりにポッカリと巨大なクレーターが出来てるんですけど!!しかも僕ら浮いてるし、何やったの貴子ちゃん?

えっ、衛星レーザーに反重力、なんかもう魔法少女みたいだね。



「はっ、チキン女め、逃げやがったな」


いや、そりゃ避けるよ、だって地面が溶岩みたいに真っ赤でグツグツ沸いてるし、周りでパチパチ火花飛んでんだよ、そんなの避けなきゃ死んじゃ……

えっ、僕らは避けてないよね、耐えたのあれを?

隣に立つ貴子ちゃんを見てみれば、口元が三日月のように吊り上がっていた。



ゾクッ、ブルル


その外見からは想像つかない凄みを感じた、思わず鳥肌が立つ、いつも残念な姿を見ていたから勘違いしていた。



これが。



これが、貴子ちゃんの本当の姿、白衣の悪魔、世界最恐のテロリストと呼ばれる姿なんだ。






ザシャ


「くっ、衛星レーザーとは、なんと物騒なものを……」


逃げたクレーターの淵でエボラ教授が膝をついて呟く、流石に白衣に煤がついて所々黒くなって破れている、無傷の僕らとは違っていた。教授のバリアではあの攻撃を完全には防ぎきれなかったんだ。




「はっはー、言っとくが、今ので出力は10%だぞ」


「ぐぅっ」






あれっ、これ僕の出る幕なくね。

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