第3話 必然的なパーティ
「誰が行くかっての」
「死にに行くようなもんだよなぁ」
王都にある冒険者ギルドの壁に掲示された紙を眺めながら、冒険者たちは肩を竦める。
そこには大きく目立つように、『南部の森、雷竜討伐任務。ギルドランクC以上は参加必須』と書かれている。
ギルドランクは、冒険者ギルドに所属する人間の、いわゆる順位付けだ。クエスト(個人で請け負う依頼)・ミッション(クエストより規模が大きい、パーティでの任務)の成功数、及び試験によって上がる仕組みになっていて、上に上がるほど難易度の高いミッションを受けられる。
ランク種別は下はGから上はSまであり、G→F→E→D→C→B→Aと上がっていき、SはAの上だが滅多になれない名誉称号の扱いだ。ミッションはEからしか受けられないことになっていて、Gは登録したての初心者、Fは子供でもできるお使いクエスト、というのが一般的だ。
つまり『冒険者』として名乗れるのはランクEから、ということになるが、登録料(ランクごとに異なる)が払えなかったり、面倒で試験を受けない者もいるのが現実だ。
また、冒険者と騎士との大きな違いは、所属と目的にある。
ここグレーン王国では、王国騎士は準男爵という地位を得られる。王国法に基づき、騎士団に所属して国を守るのが任務で、報酬は王国から得る。
一方冒険者は、自分の腕ひとつでのしあがる。冒険者ギルドに属し、仲間を
「今のうちに出国しようぜ」
「門で止められる前に、走れ!」
高ランクの冒険者たちは、ギルドに『王命』が貼りだされる前に察知して、その多くが既に国から出てしまっていた。
「はは。ま、逃げるが勝ちってやつだな」
そんな閑散としたギルドの一角で、苦笑する男がひとり。金髪碧眼に金色の無精ひげで、使い込んだ戦士装備の壮年の冒険者だ。金貨集めの日にシュカを救った彼は、
「ここで死ぬのが、俺の巡り合わせってやつか~うん。仕方ねえ」
大きく伸びをしてから、ギルドのカウンターで雷竜討伐ミッションを受注し、馬を手配する。
王都から、約二日の距離だ。
「騎士団より先に着いて、下見ぐらいはしねえとな。よっと」
買った馬に
死地へ向かうというのに、なぜか男の表情は晴れ晴れとしていた。
◇
「いないね?」
シュカは、鷹のキースと共にグレーン王国南部、森の入り口に立っていた。
暗雲には絶え間なく稲光が走っている。
そんな不穏な空の下、外を出歩こうとする者がいないのは至極当然なことだが
「まだ、来てないのかな」
キョロキョロと首を巡らせるシュカは、明らかに誰かを探している。
と――
ガッガッガッ。
ヒーイィィイン。
すぐ背後で、
「お?」
鮮やかにザッと
「あの時の坊主か?」
にやけながら近づいてくる彼を見て、シュカはみるみる笑顔になる。
その
「ゲンさんっ」
と呼んで、遠慮なくその胴に腕を回すようにして抱き着いた。肩に居たキースはバサバサと飛び立って、馬の
「!?」
『ゲンさん』と呼ばれた男は、驚愕に目を見開きつつも、それを受け止めた。
「なん……」
「やっぱり! 会えた!」
少年にがばりと抱き着かれた彼は、眉尻を下げてすまなそうな声を出す。
「俺、あの時名乗ったか?」
ぶんぶんと横に振られるシュカの頭を、彼は遠慮なく上からぐしゃりと撫でる。
寝ぐせのついたボサボサの銀髪が、ますますボサボサになった。
「……俺の名前、ヨルゲンだけど」
「うん。僕は、シュカ」
「シュカ……うーん? 俺をゲンさんって呼ぶのは、世界にひとりしかいなかったはずなんだが」
ヨルゲンは上がっていた口角を戻し真面目な顔をして、シュカの顔を覗きこんだ。
「まあいい。ここは、めちゃくちゃあぶねえぞ」
「知ってる。ゲンさんを待ってた。一緒に倒そう」
「あ?」
ぱちくりと目を瞬かせるヨルゲンは、その言葉をなかなか飲み込めないでいた。
「雷竜を?」
「うん」
「ふたりで?」
「うん」
絶句するヨルゲンから体を離し、隣に並びながらシュカは、
冷たい目線の先で、頻繁に光って落ちる雷の数々と共に、焦げ臭い匂いも漂い始めていた。――雷竜が、近づいてきているのだ。
「起きちゃったから、早く倒さないと。それにどうせ、ここの騎士団なんかじゃ歯が立たないよ」
「そりゃそうだけどよ……」
「
「っ」
ようやくヨルゲンは、腑に落ちた顔をする。
「……おまえ……まさか……レイヴンか!」
に、と口角を上げて、シュカは肯定も否定もせず、
「キース!」
と相棒の白い鷹を呼ぶ。
「ぴっ」
キースは、ヨルゲンの乗って来た馬の上からシュカの肩へと飛んで戻りながら、その体をなんと美しい剣へと変えていく。
ガードからグリップにかけて金銀の装飾がされている、白刃の見事なロングソードだ。そして、グリップには黒と茶の輝く石が縦並びに埋め込まれている。
チャキン!
音を鳴らして空中でその柄を握るシュカは、ヨルゲンを置き去りにする勢いで、黙って走り出した。
一方、慌ててその背を追いかけるヨルゲンは、
「
恐ろしい雷竜の存在すら吹き飛ばす事実に、ただただ高揚していた。
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