第11話 どこにも行かないよ
「ジャスパー、色々と手伝ってくれてどうもありがとう。あとは大丈夫だから、授業受けてきていいよ」
「そう言って、先日みたいに勝手に一人でうろちょろするのはダメですからね? 何かあったらすぐにわたしを呼んでください」
「わかってるってば」
「では、リアム様をよろしくお願いします」
「うん。ちゃんと看病するから安心して。いってらっしゃい」
ジャスパーに手を振ると、オフェリアは慌てて自室へと戻る。ベッドには真っ赤な顔でうなされているリアムがいた。
昨夜、寝たあとにどうもリアムの魔力切れが悪化したらしく高熱と寒気、関節痛と様々な症状が出てしまったらしい。
オフェリアはすぐに保健室に連れて行こうとしたが、魔力切れを起こしている状態で何かあったら困ると、この部屋に留まることになり、必然的にオフェリアも部屋に残ることになった。
オフェリアとしても元々看病するつもりだったので学校を休むことに関しては特に問題はなかったのだが、看病する上で氷嚢だの病人食だの色々と用意するのに一人では動けず、ジャスパーに頼んで先程まで用意するのを手伝ってもらっていたのだ。
「オフェリア」
リアムがか細い声でオフェリアを呼ぶのが聞こえて慌ててリアムのところに戻ると、さらに熱が上がったのか先程よりも顔が赤くなっていた。
「どこにも行かないで」
「どこにも行かないよ。今日は欠席届出したし、一緒にいるから安心して」
「ん。ありがとう」
ただ一緒にいると言っただけなのにホッとした表情をするリアム。
頬に触れると燃えるように熱い。
オフェリアは額に置いていた氷嚢を魔法で再凍結させ、リアムが少しでも楽になるよう努めた。
「寒い」
「寒い? あぁ、寝間着が汗びっしょりになってる。今、着替え持ってくるからささっと着替えちゃお」
「うん」
オフェリアは着替えを用意し、置換魔法で寝間着を入れ替える。濡れてしまった寝間着はすぐさま洗濯した。
「オフェリア」
「どうしたの?」
「手を握って」
「いいよ」
言われた通り手を握る。大きくて骨張っていてしっかりとした男の人の手。微力ながらも伝わる魔力の相性がいいのか、じんわりと身体に馴染んだ。
(昨日、もっとちゃんとよく見てあげればよかったな)
まさかここまで深刻な症状になるとは思わず、リアムに対してもうちょっと丁寧に接すればよかったなと反省する。魔力が高い人ほど魔力の枯渇が致命的なことはわかっていたのに、リアムだから大丈夫だろうと過信していた自分の浅慮さに腹が立った。
(心配してたくせに、何もできないだなんて)
帰ってこない心配はしてたくせに、いざ帰ってきたらおざなりなんて、いかに自分が無能だったかを思い知らされる。
だからこそ、今は一刻も早く、リアムの体調が回復するように手を尽くしたかった。
「オフェリア」
「何? っうわぁ! ちょ、リアム!?」
繋いだ手を引かれてベッドに引き込まれる。そして、そのまま抱き込まれた。
「また難しいこと考えてる?」
図星を突かれ、黙り込むオフェリア。
「オフェリアが責任を感じることはないよ」
「……でも」
「じゃあ、もしオフェリアが責任を感じてるというなら、ちょっと一緒に寝てもらってもいいかな? オフェリアとくっついてるだけで気分が楽になる」
「それくらいは別にいいけど」
「ありがとう」
(なんだかドキドキする)
リアムが熱いせいか。
それとも、彼の体温と鼓動を直に感じるせいか。
(でも心地いい)
きっと魔力が安定してるからだろう。
リアムが言っていたように、微力ながらオフェリアの魔力がリアムの魔力を補っているのがわかる。
これで役に立っているのかとちょっと不安にはなるが、リアムの気分が楽になる手伝いができているのであればいいなと、オフェリアはよりリアムの身体に自身を密着させた。
「積極的だね」
「なっ、違っ! 少しでもリアムのために……っ」
「わかってるよ。でもムキになるオフェリアは可愛い」
「またそんなこと言って」
軽口が言えるくらい楽になったのならよかったと思いつつも、まだ油断はできない。リアムは自分の隙を見せたがらないため、楽観視できないのは昨夜のことで学習済みだ。
(昨日恥ずかしがらずにキスしておけばよかったかな)
魔力を譲渡する上でキスはかなり効果的だ。
昨夜は冗談で済ませていたが、考えてみたらあれはリアムなりのSOSのサインだったかもと今更ながら後悔する。
(溺れたときの人工呼吸と同じように、人命救助だと思ってすればよかったのに私のバカ。……今からでも間に合うかな、でも今更だよね)
内心悶々と葛藤していると、リアムが首筋に顔を埋めてくる。思わず「うひゃあ」と間抜けな声を上げると「まだしょうもないこと考えてるの?」とこちらのことなどお見通しかのように囁いてくる。
「だって……」
「そんなに余裕があるなら、魔力をもうちょっともらおうかな」
「え? ん……っ、くすぐったい」
リアムはそう言うと首筋に吸いついてくる。そして、べろりと舐め上げられた。
「甘い。ふふ、綺麗な首筋にキスマークつけちゃおうかな」
「リアム〜っ」
「ほら、つけられたくなかったら早く寝る。僕のために何でもしてくれるんでしょう?」
「何でもじゃないってば」
言い返しながらも、「わかった。寝ればいいんでしょ。もう寝る。おやすみ」とオフェリアは目を閉じる。
「うん、おやすみ。良い夢を、オフェリア」
リアムに甘く低い声で囁かれ、胸が高鳴るもオフェリアはギュッと目を閉じたまま。
その後、寝不足が祟ったのか、はたまた看病疲れか。オフェリアはあっという間に夢の世界へと旅立つのだった。
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